【幸せの形】海が見える家~逆風~(著:はらだみずき)ネタバレ感想【小説感想メモ④】

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【シリーズ三作目】海が見える家~旅立ち~

海が見える家三作品目
海が見える家三作品目

「海が見える家」シリーズも三作目を読み終えました。読む度に、幸せの形を考えさせられます。

今回は「逆風」ということで、起承転結の転の部分に当たりますね。私が読み終えたころは、すでにこのシリーズも完結し、新章が始まっています。

【あらすじ】
入社一ヶ月で会社を辞めた文哉は、急逝した父が遺した千葉県南房総の海が見える家で暮らして三年目を迎えた。この春に起業した文哉の生活は順風にも見えた。しかし、直撃した大型の台風によって生活は一変してしまう。通信手段すら途絶えるなか、文哉は地域の人と共に復旧作業に取り組んでいく。そんなとき、学生時代の知人の訪問を受ける。農業の師である幸吉、便利屋の和海らと深く交流し、自給自足的な生活を目指すなかで、あらためて自分がどうやって食っていくのか悩み、模索する文哉に、新たな決意が芽生えていく――。

海が見える家逆風~あらすじより引用~

作品全体通して展開の起伏は少ないですが、ゆったりとした世界観の中に確固たる軸がある作品です。

今回は、台風被害の最中に外からの訪問者が訪れます。

前作の「海が見える家~それから~」でも同じような展開がありました。

田舎に暮らす文哉と都会からの来客。この対比を作ることで、田舎に生きる文哉(主人公)の生き方を通して、自分自身の人生を考えることが出来る作品です。

今回も作中の舞台である南房総の中で、幸せの形を探す旅に出ました。


逆風に次ぐ逆風

作中のストーリ―について軽く触れましょう。今回は順風満帆に見えた起業後の生活に陰りが見え始めます。あっという間に闇に飲み込まれてしまい、どん底からのスタートと言えるでしょう。

一難去ってまた一難。台風が来たかと思えば、イノシシ被害。最後は幸吉さんまでもが亡くなってしまいました。個人的には孤高なキャラが好きだったので悲しかったですね。

ただ、それが不幸かと言ったら違うんじゃないかと思います。きっと幸吉さんには思想の死に方なのではないでしょうか。ビワに囲まれて、元の住処で死ねるなんて最高じゃないですか。私が持っている死生観に近いと思ったので…。文哉君には気の毒ですが、意志を継いで頑張ってほしいですね。

今回は壁を越えるたびに壁があって、田舎暮らしの難しさを感じました。私も安直に田舎暮らしをしたいと思っている人間ですが、考えなくてはいけないことがたくさんありますね。

田舎 海
田舎 海

インフラの面もそうですが、田舎で暮らすというのは、もしもの時に頼れる人が不在なのが一番困難なことだと思いました。

作中でもありますが、みんな自分のことで精一杯な人が多いのかもしれません。一次産業に従事して、食っていくために生きる人が多いですから、すごく納得できました。私の友人はごく少数ですが、人が多い所に住んでいると安心感があるんです。大地震で外に飛び出せば、同じように外に出ている人がいました。大学生時代には、大学の近くに一人暮らししていましたから、本当に何かあれば知り合いがたくさん近くにいたんです。そういう環境って恵まれていたなと改めて思いました。

田舎に住むって背水の陣だと思います。生きる力は湧いて来るけど、いざ何かあったらおしまい。背中を自然に預けているんですから…。人気のない自然にこそ、本当の恐怖が眠っています。

田舎暮らしというのは、簡単ではありません。しかし、そこで戦える知識と経験があれば、己の力で手繰り寄せることができる最高の幸せなのでしょう。そういう意味では文哉君にはその資格があると思いました。私も参考にしたいので、今後もずっと田舎で生きていて欲しいです笑。ずっと読みますから。


田舎と都会と幸せと

今回の「逆風」で一番印象に残っているシーンは、都倉君と文哉君の会話でした。

「食っていくってどういうこと?」

これは凄く考えさせられました。確かに食っていくってどういう意味だろう。私の中での「食っていく」は「普通の生活ができること」でした。どっちかと言ったら文哉君の考える思想に近いのかもしれないです。ちょうど最近思っていたんです。

よくよく考えれば、食っていくだけなら田舎でも成立しないか? と。

最近は移住支援もあって、最低限の就業支援もあります。仮に何もスキルがなくても、食っていくだけなら問題ないんですよね。周りと幸せを比較した時だけ不利な面があると思いますが、それ以外はメリットしかないと思います。田舎至上主義の私にとってはですが。

田舎の海
田舎の海

今回の文哉君の意見には賛成しますが、都倉君が言いたいことも凄く分かるんです。今回の文哉君と都倉君の会話で言えば、むしろ都倉君に味方したいと思ってしまった。

田舎で暮らすことで競争心を失ったり、目の前の幸せだけを享受するのは人として終わりなのではと思ってしまいます。私がゴリゴリの体育会系なので、そういう風に感じてしまいますが、皆さんはどう思いますか? 私は資本主義的考えを頭の片隅に置いておいても、田舎暮らしって成立すると思うんです。何かに振り切ることって、強さでもあり弱さでもある、諸刃の剣なんです。人生二兎を追ってなんぼだと思っているので、今回の文哉君の思想には少々懐疑的です。

食っていくだけでも十分幸せだ。

食っていく以上に富があっても幸せ。

富があって不幸になる人はいないのですから、それは諦めているだけに過ぎないと思ってしまいます。現実にも田舎暮らしで、こういう主張をする人がいますが、それが田舎暮らし思考の解であってほしいとは思いません。

やっぱ最終的には「幸せとは何か?」に帰結するんですよね。この物語を読んでいると。

まあ、私がどう思おうと、人それぞれの幸せがあっていと思います。私の幸せは未だ宝箱の中です。

【今回の学び】食っていくとは何か? を考える


終わりに

逆風
逆風

海が見える家~逆風~3.5

次が完結編ということで非常に楽しみです。幸吉さんが死んで文哉君はどんな選択を取るのか。次の刊は手元に準備してあるので、早めに読もうと思います。次回の着地次第でこの逆風の評価も変わるかもしれません。ちなみにですが、一作目と二作目はレビューはブログに未記載です。厳密にはメモには取ってあるのですが、当時はSNSに感想を綴っていたので対象外です。ネタに困ったら書き起こすかもしれません。今回はここまでありがとうございました。

ほんまる猫
ほんまる猫

筆者は、普段から幅広い小説のレビューを行っております。

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