新章開幕:山に抱かれた家
海が見える家シリーズでは、新卒で入った会社を早々に辞めた主人公が、田舎に越すことろから物語が始まる。主人公である文哉が、父の面影を追いながら海辺の田舎町で幸せを追求する。
今回は、海が見える家シリーズからの続編である「山に抱かれた家」のネタバレ感想です。
主人公の文哉が求める田舎暮らしを、読者である私たちも追体験することで自分にとっての幸せを深く考てしまう物語構成。文哉にとってだけではなく、私たち読者にも大事な解が眠っています。昨今の地方移住や都市部への人口集中問題に関して、自分なりの答えを見つけるのが、この物語の楽しみ方なのかなと思っています。今回は新章開幕ということで「山に抱かれた家」という新タイトル。

【あらすじ】
田舎暮らしの夢を叶えた父が遺してくれた「海が見える家」で暮らす文哉。旅の途中で山間にある畑付きの空き家を偶然見つけ、つき合いはじめた凪子と内覧に出かける。そこは野菜作りの師匠であった今は亡き幸吉の親友、猟師の市蔵の故郷だった。しかし文哉にとっては縁もゆかりもない土地で、限界集落でもある。それでも運命を感じた文哉は空き家を買い、古い家屋や長年休耕地だった畑に手を入れながらひとりで暮らしはじめる。自分で選んだ、さらなる田舎において、文哉の望む自給自足的な暮らしは果たして実現できるのか? ベストセラー「海が見える家」シリーズの新たな章がスタートする!【山に抱かれた家より引用】
海辺で暮らしていた文哉は、本格的に「自分の土地」を探すための第一歩を踏み出しました。今作の舞台は長野県と群馬県の県境の集落だそう。妙義山と言う山の近くらしいです。海→山暮らしという大きな決断をした文哉ですが、今回も様々な壁が立ちはだかります。果たして彼が目指す理想の田舎暮らしは見つかるのでしょうか…。
前置きが長くなってしまいました。

それでは行ってみましょう
今回は主に2つの観点から感想を書こうと思います。
・田舎暮らしは自分次第
・田舎と自立
田舎暮らしは自分次第

毎回ストーリーに組み込まれる都会との対比。今回は、文哉⇔都倉・美晴の構図で、田舎暮らしとは何かが語られました。
田舎暮らしは自分次第。
今回文哉が見つけた一つの解となっています。
山に抱かれた家に引っ越して来た文哉ですが、今回の章では、購入した家の改修と収益源の確保(梅)に奔走しました。田舎に暮らす様々な人に振り回されならも、最終的には自分の力で生きていくことを強く誓うのでした。主に梅畑に対する苦労が描かれていますが、なんだかんだで最終的に自分の力を信じて前に進む文哉には尊敬をしてしまいます。前作の台風被害もそうですが、荒波に飲まれるようで飲まれない文哉には見習うべきところが多くあると思っていました。
自分を強く持つこと。
今回の「田舎暮らしは自分次第」という部分にもつながる強さです。郷に入れば郷に従えという言葉もありますが、自分を保ち続ける力は、田舎でなくても必要な力だと私は思います。私も最近社会人の仲間入りした社畜の一人です。会社で揉まれる中で、自分を強く保つことの難しさを痛感しています。少しでも気を抜けば簡単に社会の汚さに飲まれてしまうような危機感を常に感じていました。
社会のありとあらゆる場所に、自分を見失うきっかけが眠っています。
会社に囚われて自分の首を絞めるような人もいる。他人の正しさに従うだけで疑うことを許さない環境がある。長いものに巻かれて出世のために自分の良心や信念を捨てたり、諦めたり。逆に成功を諦めて、会社という底なし沼に沈んだままになってしまう人もいる。酒、タバコなんかもその要素の一つと言えるかもしれません。
幸いにも私には天邪鬼特性が備わっています。社会に飲まれるなんてことはこの先も無いと思いますが、文哉のような自分を強く持つ意志を大事に生活したい。加えて、郷に入っても絶妙なバランス感覚を保てる文哉のコミュニケーションスキルが欲しいですね(笑)私は超コミュニケーション障害なので…。
田舎に行こうとも都会で暮らそうとも、違うようで似た自分を保つ力が必要なのかもしれません。今回の文哉のように、自分の軸を持ちながら、色々な人に頼って自分の糧としていくこと。それが、生き抜くために必要な要素だと教わりました。
田舎と自立

次は田舎と自立の観点から。大枠の気づきではなくて、田舎で暮らすことにフォーカスを当ててみます。
「自分のどこかにこんな田舎に空き家を飼って暮らすのだから、歓迎してくれるだろう、という甘えや驕りがあったことだ」
~文哉(山に抱かれた家P,130より引用)~
この言葉に非常にハッとさせられました。
道路の問題で自治体に相談をしていた文哉。自分の行いと他人が考える田舎暮らしの齟齬を見つけて、さらに田舎で暮らすことの真髄へ近づいていくのでした。
こんな風に甘えて考えていた人が、私以外にもいたのではないでしょうか?
私自身はこれから田舎へ越してみようという身分ですが、こういう気持ちしかありませんでした。心のどこかで「私が引っ越してあげるんだから」「私がわざわざ都会を捨ててきて来てあげた」こんな慢心があったことは認めなくてはなりません。
文哉も言っているように、本質的な田舎暮らしは自立した田舎暮らしということ。
誰かに頼ってばかりのお客様気分では到底戦えないのだと知りました。田舎だろうと都会だろうと構造的には同じ組織なのです。自分から主体的に動いていけなければ、どっちにしろ堕落していく人生しかない。それに気づけた文哉と読者は、貴重な学びを得ることが出来たと思います。田舎暮らしに対して核心的な考え方を知れることが出来るのも、このシリーズの醍醐味ですね。
終わりに

山に抱かれた家
今回は「山に抱かれた家」でした。前作海が見える家より再スタートの第一歩。多くの困難を乗り越えて、理想に進む文哉に元気をもらいながら、筆者も社会で戦っていこうと思えました。今回もあっという間の2時間の旅でした。

次回作も楽しみにしておきます。
今回はここまで。ありがとうございました。
途中で使っているイメージ写真は、長野県木曽郡の町並みです。
ぜひ遊びに行ってみてください。
【2024年現状トップは痴人の愛★4.5】