【服従は幸か不幸か】痴人の愛(著:谷崎潤一郎)~ネタバレ感想~【小説感想メモ②】

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【衝撃】痴人の愛を読んでみて

一言で表すなら「新時代の扉」

時代背景的にもそうだ。読み終わった瞬間、私の中で新たな扉が開かれた音がした。何かが開かれて、そこから何かが出たり入ったりしている感覚に陥った。多分開いたら終わるやつだ。確信した私は、そっと本を閉じるのでした。

衝撃的で刺激的な物語。それが痴人の愛(著:谷崎潤一郎)

【あらすじ】
将来美人確定の家で娘に一目惚れし、同居生活に持ち込んだ僕、譲治。洋服、食事、習い事。欲しがるものは何でも与え、一流の女に育てようとしたが……。いつしか、あいつは僕を完全に支配下に置いていた。

痴人の愛'(新潮文庫)より引用

読み始めたきっかけは、「痴人の愛」というタイトルと谷崎潤一郎という名前を教科書で知っていたから。ただそれだけ。

あらすじを読むと不穏な空気が流れていることが分かる。私はあらすじを読まずに読み始めたため、余計に衝撃が大きかったのだと思う。元々の印象として、男女間の生々しい情事が描かれることは予想していた。

その予想っていうのが、「男側が不倫するような内容なのではないか」というもの。

実際は真逆で、女に振り回される男が描かれている。正直興奮した。

日曜日のお昼にこんなもの見せられたらたまったもんじゃない笑。

そんな衝撃的作品の個人的感想を書き起こす。

痴人の愛
痴人の愛

良かった点①美しい文体

まずは触りから。

とにかく読みやすい。

「一昔前の作品だし、読みにくいかなー」と思っていたが、全然そんなことなかった。冒頭から引き込まれる文体のおかげで、あっという間に読み終わってしまった。1週間コースを覚悟して読み始めたものの、お昼から夕方にかけて3時間の日帰り旅になった。

最初の一文から、心をグッとつかまれる。生々しくも文学的に美しい表現が、心に絶え間なく注がれていくため、ずっとフワフワとした高揚感を持ちながら読んでいた。

譲治の語り口調で進んで行くことで、後悔とか恐怖の大きさが鮮明に読み取れる。「あの時は~だった」とか「あの時~していれば」とか、今もナオミに囚われているというのが、しみじみと伝わってくる。

ずっと「引き返せ」主張するような語り口調が続いていく。私も、幾度となく休憩しようと思ったが、辞めることができなかった。たぶん、私自身もナオミの肉体美に魅せられていたのだと思う。譲治は引き返してほしいと思っているのに、それをさせない谷崎の圧倒的表現力。文章にはそれが詰まっていた。ずっと心臓が引っ張られているような感覚で、こっちが苦しくなってしまう。

美しい文章なのにグニャグニャに捻じ曲がっている。歪な文章が凄く好きだ。

良かった点②絶対服従という着地点

ナオミの精神と肉体。それは譲治にとって二つで一つの理想。なのに、どうして肉体だけが成熟していくのか。本能に抗えない苦しみからにじみ出るエロティシズムは、読者の心をも蝕んでいく。

残酷だなあ……。これを幸せと呼ぶのか不幸と呼ぶのか。

私は幸福であると思った。
常識とか一般論を捨てて生きるというのは、案外生きやすい。私は譲治のように女性に執着したことはない。しかし、色々なものに心酔しているオタクとして、他ジャンルでも同じことが言えると思っている。例えば、宗教や偶像崇拝と一緒だ。服従するという心地よさは、元来人間が持っている当たり前の感情だ。そうじゃなきゃ社会が成り立たない。朝の山手線を見て見れば、それが答えだと思う。

誰もが持つマゾヒズムの究極の形が、譲治の着地点。

服従は究極の愛だ。誰にも理解されないからこそ、究極の愛は生まれる。それを極限まで表現したんだから、気持ち悪いという感想を持つ人もいるだろう。理解できないものを簡単に排斥するのもいいかもしれないが、その気持ち悪さを楽しめる人間は、究極のマゾヒズムを追求できるかもしれない。

私は痴人の愛を読み終えて、自分に可能性を感じている。いつか新世界にたどり着けるかもしれないと思った。たぶんその素質がある。だからこんなに心にぶっ刺さっているんだ。

でも、譲治にとっての究極の服従(愛)って、本当は精神・肉体的に成熟したナオミに向けるべきもの。2つが揃って初めて、全てを捧げる価値が生まれるはずだった。いつまでも自分の所有物として、理想として、崇めながら生きていくはずだった。それが100の幸せだとする。

なのに、「性欲」という存在のせいで、理想の50%でも100の幸せが成り立ってしまう。

これが最も残酷だと思う点。もはや50%の理にも及ばない。自分だけの理想だったものが、多くの人間に汚されている。すでに理想を自らの手で汚し、自分を安売りする売春婦なのに。価値なんてとうにないはずなのに。「性」という魅力がある限り、100の幸せであり続ける。

結局「性」以外なんて飾り物で、今までの理想は全て虚構の存在だったってわけ。結局は「エロス」があればそれでいい。「性欲」に抗えない人間の醜さが美しい。

服従という究極の愛が、捻じ曲がって迎えるクライマックスからは目が離せなかった。

「ナオミさんと呼ぶか!!」

「はい!!」

ああ、ゾクゾクする。内なるマゾヒズムが湧き上がってくる。きっとこんな生活も悪くない。

総括

痴人の愛4.5

私は感想の最初に「新時代の扉」と掲げた。

痴人の愛は、人の心の奥底をすくいあげる作品だ。空っぽになった心に何が入るのか。もしもこの作品が入ってしまったようなら、新たな扉が開かれるに違いない。私は少しだけ変わってしまった気がする。

それがいい方向であると願いたい。


備忘録的な何かになっているので、余り人様にお見せするような感想じゃないのですが、楽しんでくれたら幸いです。まだまだ青二才で人に読ませる文章は書けませんが、いつか共感を頂けるような文章を書けたらいいなと思っています。今回はここまで。ありがとうございました。