雪国(著:川端康成)

今回は川端康成著「雪国」のネタバレ感想です。
【あらすじ】
親譲りの財産で、きままな生活を送る島村は、雪深い温泉町で芸者駒子と出会う。許婚者の療養費を作るため芸者になったという、駒子の一途な生き方に惹かれながらも、島村はゆきずりの愛以上のつながりを持とうとしない――。冷たいほどにすんだ島村の心の鏡に映される駒子の烈しい情熱を、哀しくも美しく描く。ノーベル賞作家の美質が、完全な開花を見せた不朽の名作。【雪国あらすじより引用】
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」
から始まる「雪国」は、川端康成の代表作でもあり、女性の美しさと雪国の叙情的な描写が印象に残る作品です。
伊豆の踊子で止まっていた私ですが、伊豆の踊子は非常に好きな作品だったので、読み始める前から楽しみにしていました。川端康成、谷崎潤一郎、三島由紀夫等、文豪の描く男の苦しみやもどかしい葛藤が大好きだったので、そのような作品なのかなと思っていましたが「雪国」は少し違いました。それでも面白かったことに変わりはありませんが……
今回はそんな「雪国」のネタバレ感想を語っていきます。
【この記事の焦点】
・雪国ネタバレ感想
島村を通した「雪国」の世界

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」から始まるのが有名な本作ですが、どうしてこれほどまでにスポットライトが当たるのか。「雪国」を読み終えてそれが分かった気がします。まず、冒頭から心を持っていかれてしまう情景描写。車窓には、川端の手で描かれる葉子の美しさ。車窓を通すことで、より一層映える葉子に心惹かれていく自分がいました。
ちょっと場面は戻って、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」に続く「夜の底が白くなった……」という表現が、私の感性をくすぐってくる絶妙な表現。やはり多くの名作に共通するのは、冒頭でいかに人の心を奪うか。これが完璧にできている作品は、人気なのだなと改めて思いましたね。
話は逸れますが、後々感想を書くであろう「Nのために(著:湊かなえ)」も「今日中に読んでしまおう」と確信を持たせるような描き方をしていました。私が読んだ直近の2冊からは、そんな冒頭の魅力がありました。
島村が寒さの中献身的な葉子に美しさを見出すさまは、見事なものです。その後に島村が渇望する美を持っている女「駒子」に出会ってしまうことで、駒子が島村が持つ美の犠牲者になってしまうとは。
駒子と島村の決して交わらない隔たりが雪国の上に描かれる。雪国の哀愁を完璧なまでに描き切った川端様には脱帽です(何目線なんだ)島村の美が心に溶けていくような表現がたまらなく好きでした。
ちょっと抽象的な書き方になってしまいましたが、島村が抽象的な人間なので許してください。私自身、そこまで成熟していないので……
欲情からは生まれない美しさ

この作品は島村の視点を借りて、恋と哀れみのすれ違いを見る物語だったと思います。美しさが損なわれてしまうからと、冒頭から駒子を突っぱねる島村。その態度は最後まで変わらずに、島村の中で追及されて行きます。そして、島村に踊らされる哀れな女駒子。徐々に惹かれていく様と駒子の歩調に合わせて離れていく島村の、まるで波打ち際を歩くような関係性が、読者をなんとも言えない気持ちにさせます。
正直、島村の追求する美しさというのが理解できてしまうのがね。駒子が囚われているさまを見るのは、ペットショップにいる籠に捕らわれた小鳥を見ているのと同じような気持ちになりました。出ていかないように、大切にする。籠の中にいる駒子から目が離せない。なのに、島村は葉子に惹かれていく。籠の先を見ているのです。ああ、駒子の気持ちを考えるといたたまれない。「どうして私を連れて行かないの? 冷たくなってきて、いやよ。」その籠から駒子が出てきてしまうと、島村にとっては全てが無に帰してしまうから。
「あんた私の見送ってたのを知らないじゃないの」
「言って頂戴。それで通っていらしたの? あんた私を笑っていたのね。やっぱり笑っていらしたのね」「雪国」より引用
この物語は葉子が死ぬことで完成される。健気に生き抜いていく駒子がここに完成されてしまうのです。きっとこの先もいろんなものを背負って生きていくのでしょう。頑張って、ね。私が島村だったらたまりませんね。天の川の下、島村はこの先で何を思ったのでしょうか。
終わりに

雪国
私は読解力にはあまり自身がないので、川端の描いた美が完璧に理解できた自身がありませんが、私なりに島村と駒子の関係に美を見出して楽しむことが出来たので良かったです。
ぜひ参考にしてください。
今回はここまで。ありがとうございました。
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