僕らの空は群青色(著:砂川雨路)

獣医院を開業し、妻と子供に囲まれ幸せな日々を送る白井恒。そんな順風満帆な日々の裏で、恒はずっと思い悩み続けていた。妻にずっと言えなかった真実。墓場まで持っていくつもりだった秘密を今ここに記したい。ほかならぬ君のために。全ては2001年の夏ーー共に群青色の空を眺めた親友との出会いから始まった。
今回は『僕らの空は群青色』ネタバレ感想です。
不意に寄ったBOOKOFFで手に取った一冊。200ページとちょっとの短い物語でしたのでサクッと感想を記します。本作は大人になった主人公白井恒の後悔と思い出を綴った物語。一生分の夏を過ごした2001年の夏に何があったのか。徐々に深まる友達との絆と深空への想い。色んなものが絡み合いながら物語は終幕へ向かっていく。
今回話したいのはたった一つ。
‘‘愛情と友情‘‘
この二つについて考えながら感想を記しました。
【今回の記事の概要】
・僕らの空は群青色ネタバレ感想
・愛情と友情について
・総合点
愛情と友情

正直語るところは少なかった。たったひと夏の物語であったためか、恋愛パートも友情パートも薄味だった印象。そんな中に学びあったとするのならこれしかない。
‘‘愛情と友情‘‘
冒頭でも掲げた今回の感想の軸です。
恒は獣医学部に通う大学1年生。そこで渡と出会い徐々に中を深めていく。病院で寝たきりだった渡の姉‘‘深空‘‘に惹かれていたが、渡も彼女が好きなのだと悟る。そんな最中に渡を失い、深空と恒が取り残されてしまう。恒は、渡の死後に目覚めた記憶喪失の深空を『幼馴染』として支え無事ゴールイン。偽りの記憶を与え愛を育んできた恒は、人生を振り返り何を思うのか。
図らずも渡と育んできた友情は愛の犠牲になり、恒は思い悩むことになりました。
私はこの結末にどうしようもない嫌悪を抱きました(褒め言葉)
友情が蔑ろにされている気がしてなりません。深空は渡の存在を失い、結果的には恒が独り占めにする。恒自身もそれを分かっていたからこそ、今回のような手記を記すことになったと考えることができますね。今回は愛と友情を天秤にかける作品ではありませんでしたが、基本的に同じことが言えると思います。
『どちらを取るべきだったんだろう』と。
今回のパターンでは深空を選ばざるを得なかったからこそ重く、苦しいものがある。私も同じような状況になったのならきっと人生をかけて悩むと思います。だけど人によっては愛を優先する人だっているのではないでしょうか? そうなるとこの物語の評価は二分されてしまうかもしれません。
つまり、私や恒は友情>愛と考えているのでここまで重苦しく捉えているのですが、きっと愛を優先的に考える人種であれば『私たちを結んでくれてありがとう』というハッピーエンドになってもおかしくはないのです。
構成的に考えるのなら、アンバランスな友情と愛情の比率。これが狙ったものなのか意図しないものなのか、私には分かりませんが、明らかに深空の描写が少ない(深空への手記と捉えるなら普通かもしれないけど)

どちらかを選ぶのならあなたはどっちを選ぶでしょうか。
私が読了後に考えていたのは『愛はいくらでも誤魔化せる』ということ。
友情は誤魔化せない。嫌いな同性に誘われれば断るけれど、異性であれば、とりあえず誘いを受ける人も一定数いると思う。異性、つまり性欲の対象であれば、好き嫌い以外の要因でいくらでも誤魔化せてしまう。スタイルがいいとか、カッコいいとか可愛いとか。お金を持っているとか、打算的に考えても成立するのが愛だと、私は思う。
でも友情なら違う。一緒にいたくなければいる必要もないし、互いに互いを好意的に思っているから成り立つ美しい関係性なのです。本作の渡と恒のような、たったひと夏でも親友になれてしまうような関係性ならなおさら。
ただ、私も親友と同じ人を好きになったことがある。図らずも。
ラブコメ的に言うなら私が‘‘勝った‘‘のだが、そこにあったのは愛ではなく虚しさ。愛情の下敷きになるほど友情は安いものじゃないと思う。
ただ、恒と出会う前に渡が殺されるフラグはすでに立っていたと言えるわけで。もしも、渡が死ぬ運命にあったのなら、深空と恒が結ばれたからこそ、二人の子どもの中に渡が生きていた。そう考えるなら、これが最善のエンドだったとも考えられるわけです。
終わりに

僕らの空は群青色
実はこの小説には通ずるものがある。舞台となった柏が……っとここまで言ってしまうと身バレしてしまう可能性もあるので、口をつぐんでおく。
評価はまずまずと言ったところ。もう少し深空に関わる描写があれば良かった。ただ、友群青色の空の下育まれていく友情には、目を見張るものがあったと思います。
今回はここまで。ありがとうございました。
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