【愛という呪い】街とその不確かな壁(著:村上春樹)ネタバレ感想【part53】

ー読書感想文ー

街とその不確かな壁(著:村上春樹)

街とその不確かな壁(著:村上春樹)
街とその不確かな壁(著:村上春樹)

【街とその不確かな壁(著:村上春樹)あらすじ】
・17歳の夏、16歳のきみはぼくに高い壁に囲まれた街の話をしてくれた。角笛が鳴り響く夕暮れ、すれ違う獣の群れ、古びた図書館できみと過ごす時間、僕らは影を失ってこの街で暮らす。17歳の初恋と孤独に苛まれる主人公は、高い壁に囲まれた街と向き合い、その謎を解き明かしていくーー1980年に発表された中編小説を長編に再編した村上春樹の名作。

今回は『街とその不確かな壁』のネタバレ感想です。

8か月前に『1Q84』の感想を書いて以来の村上春樹作品でした。

村上春樹作品を読むと、自分の文章も村上春樹チックになるのが悩みです。独特のリズムと癖になる会話。その全部がたまらなく好きです。自分でハルキストを自称したことはありませんが、そろそろその領域に踏み込んでいる気がします。

さて、『街とその不確かな壁』は、男に刺さる内容だったと思います。17歳の恋を40歳まで引きずる主人公の女々しさと心世界、そこを紐解いていくと見える『高い壁に囲まれた街』の謎。いつもの通り、決して多くは語られない作品ですが、きっとあなたなりの解釈が見つかるはずです。

では、いってみましょう。


北条なすの

・体育会系聖地ライター
・アニメ聖地や書籍の感想などを総合エンタメサイト。特にゆるキャン△が好き。別サイトでは歴史・自然スポットを中心に日本の魅力を発信中。
【実績:マケイン聖地完全制覇/ゆるキャン△聖地大井川原付完全走破など】

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【今回の記事の概要】
・『街とその不確かな壁』ネタバレ感想
・壁の中の世界とは~別れ~
・街とその不確かな壁|好きなフレーズ集
・総合評価


壁の中の世界とは~決別~

壁の中

【現実と非現実の境界線】
〇……現実と非現実を隔てる壁のようなものは、この世界に実際に存在しているのだろうか?【p.587より引用】

壁の中の話と現実の話。いつもの通り2つの物語から始まる物語調です。それは次第に一つになって合わさっていく。この壮大な回収作業と村上春樹の独特なテンポがオリジナルの世界観を演出していますね。これもまたいつも通りと言うべきでしょうか。

壁の向こうの世界へ行ったり来たりを繰り返す主人公。引っ越してからは、‘‘案内人‘‘のイエロー・サブマリンの少年と出会いました。最後、壁の向こう側で、影と一つになり現実へ戻っていきました。過去との決別と読んでいいでしょう。

村上春樹作品は、意外とラストはスッキリする終わり方をしてくれるんですよね。

現実と非現実が溶け合う不思議な世界観は健在です。本作の中でも問われる‘‘壁の存在‘‘に直結する対比。非現実と現実の境界には、子易さん(幽霊)やイエロー・サブマリンの少年など魅力的なキャラクターがたくさん登場してくれました。

では本題。

私が思う『高い壁に囲まれた世界』=『寂しさを穴埋めする場所』です。孤独な人間が辿り着く逃避場所とも言えるでしょうか。

孤独への共感は次章で語るとして、今は壁の中の世界について考えます。

【焼き切れるほどの愛】
〇「……いったん混じりけのない純粋な愛を味わったものは、言うなれば、心の一部が照射されてしまうのです。ある意味焼け切れてしまうのです……途中できっぱりと断ち切られてしまったような場合には。そのような愛は当人にとって無上の至福であると同時に、ある意味厄介な呪いでもあります……」【p.380より引用】
〇ーー終わらない疫病【p.449より引用】
〇ーーまるで何かの埋め合わせをするみたいに【p.530より引用】

【壁について】
〇好きなだけ遠くまで走るといい。私はいつもそこにいる【p.174より引用】
〇「僕は思うのですが、街を囲む壁とはおそらく、あなたという人間を作り上げている意識のことです。だからこそその壁はあなたの意思とは無縁に、自由にその姿かたちを変化させることができるのです……」【p.556~557より引用】
〇……互いを求めあっている。しかしそれでも私たちは何かによって隔てられているーー硬い実質をそなえた何かによって……【p.585より引用】

子易さんが言った通り、脳を焼かれた主人公は呪われてしまった。彼女から聞いた壁の中の話を逃避場所として孤独に苛まれることになる。なので、実際彼女が壁の向こうへ行ってしまったということではなく、あくまでも主人公の意識の問題だと言えるのではないでしょうか。

特に私が‘‘寂しさ‘‘というに着目したのは、イエロー・サブマリンの少年がいたからです。イエロー・サブマリンの少年の周囲の人間が‘‘何かの埋め合わせ‘‘をするように必死に捜索している姿は、今まで愛してこなかった自責の念と言えます。

主人公と同じく孤独に寂しさを抱えたことで、イエロー・サブマリンの少年は壁の中へ行くことができた。

彼が<夢読み>をする必要があったこと、そして主人公と入れ替わる形で壁の中に残ったのは、主人公の物語の舞台装置としてですよね。あくまでも主人公の決別の物語であったからこそ、余計な背景を滲ませない。今まで読んできた村上春樹作品と同じようなサブキャラ扱いでした。


そして胸を痛めてしまうラストへ。

図書館からの帰り道。「また明日」ではなく、「さよなら」と告げ別れを告げる。

17歳から20年ほどですよ。最愛の彼女とここで別れる決意をする。

自分だったらと考えると……男は分かりますよね!

この手の長い片思いを描く作品は多々ありますが(秒速5センチメートルとか)やっぱりキツイ。

私も片思い拗らせ系男子なので耐えられません。幸いなことに主人公のようなアツい恋の経験はないですけれど(それはどうなんだ)心臓を絞られる様な感覚がたまりませんでした。あっけない終わり、言葉も最低限、それでも愛している……もうおじさんにはキツイ。


街とその不確かな壁|好きなフレーズ集

村上春樹先生

「……そんなつまらない形ばかりの立場だって、何かの役に立つかもしれない」【p.72より引用】

好きすぎる。年下の女の子を想う気持ちを上手に表現できている(上から目線ごめんなさい)一つ年上というだけで、大差なんてない。ましてや17歳と16歳。だけど上でないといけない。青臭い高校男児にぴったりの表現大好きです。今ちょうど後輩の女の子を推しているので、妄想のお供に……(キモ)

人並みに何人かの女性たちと交際したし、真剣に結婚を考えたこともあった……最後には何かが起こり、いつもぼくはしくじってしまったーーしくじるというのが実にぴったりの表現だ【p.162より引用】

村上春樹の孤独系キャラって、心ここにあらずで交際していますが、本当の孤独人間は交際だってできません!!(私)というのは置いておき、反復する村上春樹の表現技法というのでしょうか。リズムが心地よくて大好きなんですよね。

ーー規則性と単調さとの間に線を引くのは、ときとして難しいものになるとしても【p.163より引用】

私も主人公のように規則性の中で孤独に生きているので、めっちゃ共感できました。

私も一日の勉強量とかブログとか、小説とか、明確に規則正しい生活をしているので、結構驚かれるんですよね。だからそういう姿を隠すようにしているんです。それはつまり孤独であるとも言えます。そういう生き方しかできない人間なんです……私も。


終わりに

街とその不確かな壁(著:村上春樹)
街とその不確かな壁(著:村上春樹)

【街とその不確かな壁(著:村上春樹)まとめ】
・醜くも感動的な過去との決別
・『高い壁に囲まれた世界』=『寂しさを穴埋めする場所』
・総合評価4.3

今回は『街とその不確かな壁』でした。

現状最新作であるので、私も過去作をもう少し漁ろうと思います。

海辺のカフカ・ノルウェイの森・1Q84ぐらいですかね。次は何を読もうか。

いつも村上春樹作品を読んだ後に、自分の小説を書こうとすると文体が映ってしまう。個性はいずこへーー。それぐらいオリジナルな作家さんなんですよね。本当に凄いです。

今回はここまで。ありがとうございました。

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