【不朽の名作】車輪の下(著:ヘルマンヘッセ)ネタバレ感想~小説感想メモ⑫~

ー読書感想文ー

車輪の下(著:ヘルマンヘッセ)

車輪の下
車輪の下

今回はヘルマンヘッセ著、車輪の下のネタバレ感想です。

【あらすじ】
ひたむきな自然児であるだけに傷つきやすい少年ハンスは、周囲の人々の期待にこたえようとひたすら勉強にうちこみ、神学校の入学試験に通った。だが、そこでの生活は少年の心を踏みにじる規則ずくめなものだった。少年らしい反抗に駆りたてられた彼は、学校を去って見習い工として出なおそうとする……。子どもの心と生活とを自らの文学のふるさととするヘッセの代表的自伝小説。【車輪の下あらすじより引用】

日本でも人気な車輪の下。ヘルマンヘッセには数多くの代表作があるものの、実は日本では、何故か圧倒的に車輪の下が読まれているそう。言い換えれば、日本人の心に通ずるものがこの作品には詰まっているということです。

秀才の挫折、故郷に恋慕う気持ち、大人からの圧力……

どのテーマをとっても、日本の価値観に結びついている気がします。健全な青少年が、未完成のあやふやな気持ちを抱えながら階段を登って行く姿に、心が揺れること間違いなし。

今回は、私が感じた3つの観点からのネタバレ感想をお送りいたします。


北条なすの

二次元が住処のガチ体育会上がりオタク。仕事しながらアニメ聖地の現地情報や小説の感想を綴っています。【実績:ゆるキャン△聖地(静岡西部)完全制覇・マケイン聖地完全制覇等】他にも貧乏旅行スキル、城郭、登山、温泉の記事を更新中。

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【この記事の焦点】
・車輪の下ネタバレ感想
・日本人に愛される理由。


叙情的な表現と故郷

故郷(イメージ)
故郷(イメージ)

まずは物語全体の感想から。

抒情的で、牧歌的。草木や川が輝いているようでした。川底で太陽を反射する砂みたいに、さらさらと流れていく文体が心に染みました。実際の時間軸で語られている物語(回想ではない)なのに、思い出みたいな輝きをみせられてしまうと、自ずと読者も故郷を思い出します。ハンスが川で魚を釣っているだけなのに、草いきれを感じながら寝そべっているだけなのに懐かしさに溺れそうになりました。

物語の中盤まで、長く低空飛行が続いていた気がします。要所の情景描写に心を動かされながらも、物語的にはあまり変化はありません。ハンスが神学校に入学し、真面目に努力する。期待を背負ってひたむきに積み重ねる姿には、苦しさとちょっとばかしの応援する気持ちがわきました。ハイルナーという詩人の友人が登場してからは、物語にもハリが生まれていた気がしますが、物語だけで評価してしまうと何か物足りない……。

少し不安になりながらも読み進めていきます。

そして、ハンスがハイルナーと引き離されて、歯車が狂い始めます。ハンスがノイローゼになり、物語に動きが生まれました。今までは、目を背けながら大人に手を引かれていたハンスですが、働き始めることで、初めて目を背けていた世界と対面し、なおかつ自分の足で歩くことになりました。

この辺りで気づくんですよね。こんな展開だれも望んじゃいないと。

何もない平行線みたいな世界の中で生きていたかった。大人になってしまった今の私にも痛いほどわかりました。働いて、恋をして、酒を飲んで……。みんなが同じような道を歩んでいく。いわゆる普通の暮らしに、強烈な寂しさを感じながらも、最後はハンスが死んでしまう。平坦に続いた草原から急に崖に突き落とされた気分です。私の心に再燃していた子ども心が穢されてくことに、私自身も苦しみました。ハンスの気持ちが痛いほどわかる。分かりすぎるのです。

読み終わった時、思わず故郷を想い、枕を濡らしてしまうほどの物語。その物語を際立たせるヘッセの文体が私を心地よくしてくれました。


階段はある日突然やってくる

登

人が大人になるのは振り返るとき、大人になった瞬間には自覚できないもの

だと私は思っています。その人にとって大人になるというのが何を意味するのかもそれぞれ違います。大人になれて喜ぶのか、悲しむのか。全ては、それぞれの通過点を通り過ぎてある日突然やってくるもの。それを自覚して初めて、人は大人になるのだと思います。

働き始めたり、恋人が出来たり、キスをしたり、お酒を受け入れり、タバコを受け入れたり。

その行為を経て振り返った時、何となく「大人になったなぁ」と思うのが始まり。ハンス自身も少しづつその予兆を感じ取るのです。子供の頃に遊びに行っていたタカ小路でも、自身と今の子どもたちとの差に虚しさを感じる描写がありました。そこから、仕事、恋、酒とを済ませたハンスはいつか大人になるときがくる。その前に彼が死ねたのは幸福と言うべきなのかもしれません。きっと著者のヘッセも、こんな大人になりたくないという思いだったのではないでしょうか。実際「小さなころから詩人になりたくて……」と考えていたヘッセですから、自らを投影したハンスにこの先を歩んでほしくなかったのだと思います。私もそっち側なのでよく分かります。

できないことができるようになるのは大人の良さなのかもしれません。しかし、できていたことができなくなるのは大人なりの苦悩なのかもしれませんね。


愛が故の鎖

向き合う

愛が故の鎖、次は親・指導者側に立って考えてみましょう。

私は親ではないですが、同じように厳しい監視の下まじめにやってきた生徒だったので、ハンスの苦しみはよくわかるのです。ただ、親目線での気持ちというのは、考えるまでもなくクライマックスで語られました。

「あれほど生まれつきがあって、しかも万事、学校も試験もうまくいったのに――それから急に不幸が続くんで」【ギーベンラート父より引用】

親としては全てを尽くした気でいたのでしょう。親なりの苦悩は伝わってきますね。子どもの気持ちを考えるのと、親の理想の押し付けというのは、交わることが奇跡なんです。交わった結果何かのプロになるなど、親の七光りなんて言葉もあります。ですが、それ自体が幸福で、行き違ってしまうことがほとんどだと思うんです。私自身も両親との間に、やりたいこととやってほしいことの確執が長く続いていました。子どもなりに親の気持ちと言うのは何となく理解できるんです。ですが、自分の心が言うことを聞かない。その苦しみや憎しみが精神的病に繋がってしまった。それはとても残念でなりません。

大人になった私だから、優しくまとめていますが、少し前まで憎しみしかありませんでしたからね。それこそ死んでしまおうと思ったほど。普通に抗うのはダサくない。私はハンスの意思をついて生きていこうと思えました。


総括:日本人に人気な「車輪の下」

車輪の下
車輪の下

車輪の下4.0

ここまでで、日本人に通ずる心が見えて来たのではないでしょうか。

日本人は縛られることが大好きで、縛ることも大好きで。

縛られることが大嫌いで、縛ることも大嫌いな優柔不断な人種だなぁと思いました。ドMなんだかどS何だかはっきりと自分の意見を持たないとハンスのようになってしまいますからね、明日からも前向きに生きたいと思えました。今回はここまで、ありがとうございました。

【関連:普段から読書感想文を書いています】