告白撃(著:住野よる)

【告白撃あらすじ】
結婚を控えた千鶴は10年来の友人である果凛へ『響貴が私に告白してくれるよう協力して欲しい』とお願いする。千鶴は響貴が自身に対して片思いをしていると知っていた。だからこそ諦めて幸せになってほしいという思いで、響貴の想いを引き出すために作戦を立てる。だが、他の友人は千鶴が結婚することを知らずに、響貴とくっつけようと並行して作戦を立てていて……千鶴はどんな選択をするのか? そして、響貴の本当の想いとは
今回は告白撃(著:住野よる先生)のネタバレ感想です。
小説の感想も今回で㉝となりましたが、住野よる先生の作品を載せるのは初めてです。実は全作品追っていますが、満を持しての登場でしょうか。
住野よる先生と言えば……『君の膵臓を食べたい』が有名です。その他『青くて痛くて脆い』や『かくしごと』なんかも映画化されるそうですね。私自身、読書人生で初めて泣いたのが『君の膵臓を食べたい』でしたので思い入れのある作家さんなのです。以来ずっと追っていました。
住野よる先生に男女の群像劇を描かせたらそれは良作に決まっています。今回も例に漏れず30歳の男女6人が登場する物語となっています。仲の良い6人組。関係を断つことなく続いてきた友人関係の中にも、それぞれ秘めている思いがあって、見過ごしていた気持ちや後悔と向き合い大人になっていく。‘‘今を生きる‘‘若者にエールを送る男女6人の群像撃です。
笑いあり、シリアスあり、涙あり。結末は最後まで読めない物語です。そして、読み終えた後には『今を前向きに生きよう』と思えました。
今回はそんな『告白撃』のネタバレ感想です。
【今回の記事の概要】
・今を生きると言うこと。
・人間関係と言うのは……。
・総合点数評価
①今を生きるということ

私がせめて未来を願えるとすれば、この現実からだけだ。……響貴はそんな可能性なかったって言った……けれどあくまでそれは、この今を選んだ私たちの話で。あったんだ……あった、無数に。何一つ、私は惜しいと思わない【P.274 千鶴より引用】
刺さる刺さる。シンプルに心を槍で一刺しされたような気分でした。男ならそう思った人もいるのではないでしょうか。少しこの辺を整理しながらいきましょう。
千鶴から始まった告白大作戦は、並行していたもう一つの告白大作戦と合わさったことで成功したと言えるでしょう。『ちゃんと響貴に向き合ってあげて』という4人の願いは結果的に千鶴に届いたのです。千鶴は友達としてしか見てなかった響貴と向き合い、答えを出した。そして響貴は自分の愚かさに気づき、最後に告白して振られ、未来を向いて生きていく。
千鶴と響貴の付き合った世界線もあったのだと結論付けたことで、とても千鶴らしいなと思うのと同時に、『勇気を出して告白してくれた人を好きになりたい』という千鶴の想いをようやく理解することができました。
『気づかない千鶴が悪』『気づいているなら千鶴からいけばいいのに』という流れで物語が進んでいたので、どっちかというと優しい響貴に肩入れしていました。バランスを取って自分の気持ちを押し殺して見守っていたんだなと心を痛めていたのですが……。
最後は千鶴のポジティブさに持っていかれたというか……ね。ちゃんと向き合って『可能性もあった』として改めて二人の幸せを願う千鶴がカッコよすぎました。
本当にその通りだなと、はい、千鶴さんすいません。確かに周りは納得しないかもしれないけれど、本人からしたら真剣に生きて愛を受け止めて結婚を決めているのだし、『ありえた過去も未来』も関係ないですよね。だって‘‘今‘‘を生きているのですから。
この思考が抜け落ちている人は多いと思います。終わってしまったことを取り返そうとする行為は、今を蔑ろにしているとも言えるのですね。ああ、言われてしまえば確かにそうだ。
ノスタルジーが心地よかったり、過去ありえた未来を妄想するのも心地よかったりする。それは誰しもそうだと思いますが、どう足掻いても過去は取り返せない。そんな単純なことも忘れてしまうほど、私も振り返ってばかりでした。
‘‘今‘‘に立つ自分の幸せを願うにはどうしたらよいか。千鶴は始めからそれを考えて響貴と向き合っていたのだと考えると、本当にいい友人だなぁと思いました。典型的な鈍感ヒロインなどと思っていてすいませんでした。
響貴は、まぁ頑張れ。ずっと感情移入しっぱなしだったよ泣。
②人間関係というのは…

②も千鶴マインドから。
人間関係と言うのは見過ごされることも多い。誤魔化してバランスを取って進んでしまうから、後に取り返しのつかないことにもなってしまう。まさに響貴の件がそうですね。
6人という大所帯で、長く関係を保ってきたからこそ見過ごされてきた細かな感情。華生と千鶴のいさかいなども、今まで見過ごされてきていたようですし、響貴の失態を強調するエピソードでした。
人間関係が続くというのは、停滞ではなくあくまで進んでいる状態なんですよね。
ずっと一緒にいれるわけじゃないから、些細な変化に目を瞑って関係性を保っていく。だから響貴が見過ごしてきた自分の気持ちも、もう取り返しのつかないところまで来てしまったのだと。そう考えるとマジ泣ける。片思いの親友が知らずに結婚しているとか……。
ずっと停滞していた響貴がようやく動き出す。そういう意味では主人公は響貴だったのかもしれません。終始響貴に夢について問わせていたのもいい味となり、‘‘今‘‘に立って前を向く最高の終わりになったと思います。
それでもあらゆる可能性は、この今を選んだ私達にはなんの関係もない。
【P.301千鶴より引用】
千鶴マインド素晴らしい。
終わりに

告白撃
【告白撃感想まとめ】
・過去のために今を蔑ろにしないこと。
・長く続く人間関係ほど小さな感情が見過ごされている。
・『それでもあらゆる可能性は、この今を選んだ私達にはなんの関係もない』
住野よる先生の作品の中でも上位に好きな作品でした。主要キャラの千鶴から学べることが多く、女々しい男には深く刺さって抜けない物語になるのではないでしょうか。
私はしばらく抜かないままにして痛みを楽しもうと思います。
今回はここまで。ありがとうございました。
【その他:小説感想】
コメント