ノーサイドゲーム(著:池井戸潤)

今回はドラマ化も果たした『ノーサイドゲーム』のネタバレ感想です。
数々の名作を生み出している作家:池井戸潤氏による小説で、社会人ラグビーを主題において書かれた小説となっています。
【あらすじ】
大企業トキワ自動車において、出世街道まっしぐらの主人公君嶋。当時常務であった滝川と企業買収案件でひと悶着を起こしてしまい、横浜にある工場へ左遷されてしまう。そこで出会ったのは、トキワ自動車が誇るラグビーチーム『アストロズ』のメンバーであった。『アストロズ』は成績も低迷、本社の方針で廃部も危ぶまれていたが、チームのゼネラルマネージャーに就任した君嶋が経営的手腕を生かして再起を図る。同時に社内に渦巻く陰謀を知ってしまった君嶋はーー。腐敗した既得権益と真っ向から戦う主人公『君嶋』に注目!
ラグビーをメインに据えている作品であり、中々とっつきにくい面もあるかもしれません。ですが、試合描写やルールが非常に丁寧に描かれているため、かなり敷居は低くなっていると思います。

ラグビー経験者の筆者が太鼓判を押します。
(積読本として5年間積んでいたのですが、それは内緒で)面白さは私が保障します。
ということで、ここからはネタバレ全開で感想を綴ります。
【この記事の焦点】
・ノーサイドゲームネタバレ感想
社会人チームとしてのあり方

主人公君嶋は、全くのラグビー素人。そんな君嶋が経営的な観点からチームを立て直す物語というのが大まかな流れでしょう。
特にこの作品の特徴となるのは『社会人チーム』としてのスポーツ文化です。
この点は従来のスポーツ小説とは大きく違う点かなと思います。
日本でメジャーなスポーツって野球だと思うので、経営の観点からの苦悩を描くとなると社会人ラグビーは良い着眼点だなと思います。
・企業ありきで成り立っていること。
・興行におけるプロとアマチュアの線引き
・会社と仲間の支え
だいたいこの辺でしょうか。社会人チームに何を求めるのかというのは難しい観点です。
私もずっと考えていたのですが、中々答えが定まらない。
企業のためにあるべきものなのか、興行としてファンのためにあるべきものなのか。
答えは恐らく両方なのでしょうが、社会人チームというのは利益だけを追求するものではないというのも一理ある。
作中のプラチナリーグ運営が言いたいこと(腐敗してるのは終わってるけど)も何となくは分かるんですよね。
でも、興行だけを追求しないから社会人チームって存在価値があると思うのです。
私が何より思ったのは、社員の笑顔を増やすこと。
レナちゃんが熱心に応援しているのを見ると、そう思いました。
会社員って、誰かの看板を背負って生きることになりますから、良くも悪くも‘‘会社‘‘はアイデンティティ。
結果、社会人チームはプロよりも踏み込んだ形で存在する形になると思います。
会場の熱が社員を巻き込んで一心同体の空気を作り出すことで、会社も社員もwinwin。まずはこれが一番だと思いました。
会社あってのチームですから、それが何よりです。プロ選手と違って身近だから感じる良さですよね。
裏付けじゃないですけど、社会人チームの試合って、プロとはまた違った熱気があるんです。今はラグビーも半プロ化していますが、社会人の都市対抗野球は顕著だと思います。
一丸という言葉が相応しいお祭り感があるので、おすすめです。席を越えて会話が飛び交い、一緒に応援すること。いい文化ですよね。
あとは、社員さんが選手を親目線で見るようになるところですかね。
「○○は一緒に働いてて……」とか誇らしげに語る人もたくさんいますから、応援に熱も入る。
私はそう語っていた人のことを良く覚えています(実体験)凄く楽しそうで、幸せそうでした。完全な主観ですけども……。
ということもあり、『社会人チームとしての存在価値』を大事にすることも、存続させていくためには興行に匹敵するぐらい大事なものだと思います。
ノーサイドゲームでは、魅力が多角的に描かれていますから、社会人チームの色んな可能性に気づくことができる作品だと思います。
地域密着もそうですが、社員との結びつき、興行の側面など。考えなきゃいけないことは多いですが、『アストロズ』に全力だった君嶋を見ると、凄く楽しそうで、ちょっぴり羨ましい気持ちになりました。
私も何事も腐らずやりたいなと思います。
変化の波及

何より、主人公の君嶋が魅力的ですよね。
理想的なビジネスマン。情熱もあるのに、合理的判断もできる。
何事にも誠実に取り組み姿勢はお手本にしないといけません。
君嶋を動かしたのはラグビーの魅力であるというのはあると思いますが……。
『楽をしはじめると人は終わる』私の大事にしている考えの一つです。
これが如実に出た結末を迎えました。『中身のない奴が一時の栄華を誇ったとしても、所詮、泡沫の夢だ』という滝川社長の言葉で締めくくられていますが、これが世の道理なのは今も昔も変わりません。
変わり続けることが成長への近道であると、今作の主人公が体現していますから、そんな君嶋に心を打たれた人は多いのではないでしょうか。
君嶋の一貫した姿勢が大企業の体制まで変えてしまうのですから、結果的に壮大な物語が出来上がり、一流の小説に。
変化は変化を呼ぶ。これが大きな学びだと思います。
終わりに

ノーサイドゲーム
長年本棚に押し込んでいたのがもったいなかった。きっとこれで成仏してくれると思いますので、ぜひとも池井戸先生の他の作品も読んでみたいと思いました。
今回はここまで。ありがとうございました。
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