成瀬は天下を取りにいく(著:宮島未奈)

【成瀬は天下を取りにいくあらすじ】
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」という有名なフレーズから始まる本作。主人公の成瀬あかりは、滋賀県大津市膳所に住む中学生。この辺ではちょっと有名な孤高の天才である。けん玉、かるた、作文、運動、勉強、漫才……果敢に挑戦する最高の主人公から目が離せない!
それぞれの視点から見える成瀬あかりは、きっと大事なことを教えてくれる。
話題沸騰中の『成瀬は天下を取りにいく』
正直逆張りして読んでいなかったのですが、やっと手に取ることができました。
滋賀県大津市の膳所を舞台に描かれた本作。私の膳所に関する事前情報は、日本3大湖城の『膳所城』があって、膳所高校(成瀬の高校)がとんでもなく優秀であること、しかありませんでした。
そんな超ローカルな街で躍動する『成瀬あかり』は、間違いなく最高の主人公です。突然変異にもほどがあるこの奇才を、彼女を取り巻く人間たちの視点を借りて読み解いていきます。

凡人の私たちにも見習うべき点がいっぱい!
ネタバレありでお送りするので、まだ読んでない人はブラウザバック推奨。
【今回の記事の概要】
・成瀬は天下を取りにいくネタバレ感想
・『何者』への近道
・『成瀬』という人から見えてくるもの
・総合評価
『何者』への近道

「……やっぱりお笑いの頂点は遠そうだな。一応出るつもりでいるが、来年になったらもっと別のことをやりたくなっているかもしれない。どちらにせよ。これで一生『M-1グランプリに出たことがある』と言えるようになったな」【p.93より抜粋】
成瀬が成瀬であることは、このフレーズに詰まっていると思いました。続編で登場する成瀬の発言を抜粋できれば、もっとストレートに伝わったと思います。『成瀬は天下を取りにいく』においては、これが最適だと思ったので引用しました。
突然M-1グランプリに出たいと言い、幼馴染の島崎さんと一緒に予選へ出場。結果は予選突破できませんでしたが、コンビ名『ゼゼカラ』はその後も続いていくことになりました。
っていうか、M-1の予選って、そんなに簡単に出場できるんですね。知りませんでした(興味深々)
成瀬になりたければ、まずは目の前のことに果敢に挑むべし。成瀬が成瀬であるのは、何者かを目指したからではありません。成瀬にとって大事なのは‘‘何をするか‘‘なのです。その積み重ねが成瀬に個性を授け、最終的に光り輝いているのだと思いました。
昨今、SNSの影響で人々の生活が可視化された中、『何者』かに固執している若者が増えました(私もその1人)。「何かで1番にならないといけない」「何かで個性を発揮して有名に」と、自分にとってこれだ!と言えるアイデンティティを探している。月並みな若者卑下だと思いますが、実際そういう測り方をしてしまう世の中です。
成瀬に明確ななりたい人物像はありません。ただ「○○がしたい」や「漠然と人助けをしたい」という気持ちのまま走り続けている。M-1の発言を例に挙げたのは、成瀬の考え方が如実に表れていると思ったからです。
私の意見ですが、『何者』って人からの評価なので、少なからず自分をすり減らして得るものだと思っています。言い換えれば、好き嫌いではなく、得意不得意で自分の道を決めてしまうということ。
私はアスリート畑出身なので、多くのスポーツ選手を見てきました。自分の「やりたい」や「好き」があるのに、何者かでなくなるのが怖いから口先では「もう辞める」と言いつつも、結局競技を続けている人もいます。究極、プロ選手だって、何者かであるけれど、少なからず同じような感情を抱いてプレーする選手は多いでしょう。「ーー自分にはこれしかない」とかよく言いますからね。
それを否定するつもりはありません。しかし、私もスポーツという『得意』を捨てて、『好き』に挑戦しようと決めた身です。心からやりたいと思えることに挑戦し続けて、自分の血肉としていくことは、自分軸として幸福なことなんだと思っています。だから成瀬の言いたいことがよく分かる。
勝ち負けじゃなく、経験自体が宝物。全部やって、その中から無数の芽が生えて、いつか『どこか』に辿り着く。その『どこか』は他人からは評価されないものかもしれませんが、絶対に自分にとって幸せな場所に違いありません。
成瀬は絶対に、幸せに辿り着きます。人目を気にして生きるの、辞めませんか?
正直キモいと思いますが、私は少なからず成瀬の生き方に共感できたので、成瀬が好きになりました。結婚してください(冗談です)
成瀬ほど極端に生きることは難しいかもしれません。それでも、本作を手に取って読んだなら、行動を変える勇気が湧き出たんじゃありませんか? 私は凄く元気を貰えました。
明日からもっとーー自分らしく。成瀬みたいに。
『成瀬』という人から見えてくるもの

自分らしく生きることができるのは、自分らしく生きる自分を認めてくれる人がいるから
あ、普通に私が思ったことです(笑)
最終章で成瀬視点で物語が語られ、成瀬は私たちが思っている以上に、普通の人間だったことが分かりましたね。成瀬にとって島崎はとても大事な友人だった。この事実が、本作をよりよいものにしていると思いました。
私は凄くハッとしたのです。
私も自分勝手に好き放題生きている人間なので(成瀬ほど凄くありません)ふと振り返った時に、同じように自分の背中を支えてくれる友人がいることを思い出しました。
いっつも振り回してばかりで、迷惑かけて、時に都合のいい時だけ泣きついて。そんな関係性なのに、自分を理解してくれて背中を押してくれる長年の友人たち。
私が他人にどう思われようと関係ないと割り切って生きていけているのは、数少ない友人たちのおかげなんだと悟ることができました。おこがましいですが、私と成瀬を重ねたときに、こう思えたのです。
逆に言えば「私ももっと成瀬みたいに生きてもいいのだ」とも思えました。自分らしく、やりたいことに挑戦して積み重ねられる人生の先に、きっと成瀬が待っている。建て替えられた西武デパートの屋上で。
終わりに

【成瀬は天下を取りにいくまとめ】
〇何者になることではなく、何をするかが大事
〇誰かに支えられていれば、誰だって自分らしく生きていける
〇総合評価
今回は『成瀬は天下を取りにいく』ネタバレ感想です。
いやあ、アニメ化が待ち遠しい作品ですね。ローカルな情景と、圧倒的主人公! そんなの最高じゃないですか。
最初は成瀬視点の物語だと思っていましたが、たくさんの人の視点から成瀬をみせることで、より成瀬の良さが際立っていましたね。
「私も成瀬みたいに強く生きるぞ!」
この決意はどこまで続くのやら……
今回はここまで。ありがとうございました。
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