【名作】Nのために(著:湊かなえ)ネタバレ感想~小説感想メモ⑭~

ー読書感想文ー

Nのために(著:湊かなえ)

Nのために
Nのために

今回は、湊かなえ氏著「Nのために」ネタバレ感想です。

【あらすじ】
超高層マンション「スカイローズガーデン」の一室で、そこに住む野口夫妻の変死体が発見された。現場に居合わせたのは、20代の4人の男女。それぞれの証言は驚くべき真実を明らかにしていく。なぜ夫妻は死んだのか? それぞれが想いを寄せるNとは誰なのか? 切なさに満ちた、著者初の純愛ミステリー。「Nのために」あらすじより引用

まず気になるのは「Nのために」というタイトルですね。とにかく、最終的にこのタイトルが回収されて「そういうことだったのか……」とカタルシスが爆発するのだと教えられて、手に取る人が多いのではないでしょうか? 私自身もその一人で、緻密に練られているだろうストーリーが、いかに私の心を動かしてくれるのか。そんなことを追考えながら読み始めたのです。

今回は、そんな「Nのために」のネタバレ感想になります。


北条なすの

二次元が住処のガチ体育会上がりオタク。仕事しながらアニメ聖地の現地情報や小説の感想を綴っています。【実績:ゆるキャン△聖地(静岡西部)完全制覇・マケイン聖地完全制覇等】他にも貧乏旅行スキル、城郭、登山、温泉の記事を更新中。

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【この記事の焦点】
・Nのためにネタバレ感想
・Nとは何なのか?


純愛が故のすれ違い

純愛と向き合う

愛する者のために揺れ動く、極限の人間模様。人の罪と愛の全てが詰まった物語でした。今まで私が読んだ小説の中でもダントツで「人の葛藤」がリアルに描かれていたと思います。ほんのわずかな勘違い、憶測が入り混じり、物語が悪い方向へ進んで行く。その過程をそれぞれの視点から見れたことで、追体験するような臨場感がありました。

何度も同じ事件を繰り返しているだけのように見えますが、視点が変わるたびに新たな事実が浮かび上がってくる。本当にパズルのような物語だったなと思いました。この部分は、湊かなえ氏も意識されていた構成だったようで、どれか一つが欠けていたら成り立たない、絶妙なバランス感覚の下成り立っている物語でした。

特に最初の成瀬君の葛藤は凄く共感できました。私自身が男なのでという枕詞が来ますが、女の子との微妙なすれ違いが生む期待と落胆が、まさに思春期の男子そのもの。杉下さんがシャープペンシルで音を鳴らすシーンや「席替えしたくない……」という彼女の言動と行動に振り回される成瀬君の心情が痛いほど分かります。何気ない一言に踊らされてしまうというのは、思春期を経た男性が誰しも経験することなのではないでしょうか。このような成瀬君の小さな憶測(妄想)の積み重ねが、Nのために動く起爆剤になっているんですよね。

「ああ、こんなに思っているのなら、Nのために捧げてしまうだろう」と私も思えました。各人が貫く愛の形が試されている今作ですから、始めの視点で成瀬君が選ばれたのは納得がいきましたね。男の片思いは、分かりやすいので笑。


読者を引き込む導入

読者を引き込む導入部分という観点では、100点のスタートだったと思います。

先述しましたが、成瀬君から始まったのが私の心を完全に奪い去った大きなポイントでした。物語は、各登場人物の事情聴取から始まります。その後、野口夫妻から一番遠い位置にいた成瀬君の視点に。そして、杉下さんへの想いが計画に参画した理由なのだと、突然のカミングアウト。完全に盲点からの告白だったので、完全に心を持っていかれましたね。

「え、杉下さんの供述じゃ、そっけない感じだったのに……」という感じです。後々考えれば、彼女なりに大切にしていた成瀬君という存在を守っていたのだと分かりますが、本作の展開と形式を上手く掴めていない初めに、そのカミングアウトは驚きしかありません。完全に心を弄ばれた私は、あっという間に読み終わってしまいました。

「これがプロの手腕か」と感心してしまいました。


究極の愛とは?

今作で語られる大きなテーマの一つ「究極の愛」

西崎さんが灼熱バードに表現した究極の愛。

杉下さんは「罪の共有」と言っていました。

今作を通して究極の愛を考えた人も多いのではないでしょうか。もちろん私もその一人。私は、究極の愛=究極の自己愛なのではないかと思っています。究極の愛というのは、双方から向けられるものではなく、あくまで自己満足に過ぎない。愛のために罪を犯せる自分の精神状態に酔っぱらっているだけなのだと思いますね。私自身がそうなので……。愛が成立するのは、2つの糸が絡み合った瞬間だと思いますが、究極の愛は片方でも成り立ってしまうもの。それほど怖いものは無いと思います。想う側も、想われる側も。もしもそんな愛を抱いている人がいるなら、心に秘めることをおすすめしたい。

ただ、「究極の愛」は届かないからこそ輝く。これは間違いない。

これ以上は話さないでおきます笑。ぼろが出そうなので。


「Nのために」というタイトル

誰もがNのために嘘をつく。一つでも真実が分かればすべて解決するのにできないバランス。

『その人のためなら自分を犠牲にしてもかまわない。その人のためならどんな嘘でもつける。その人のためなら何でもできる。その人のためなら殺人鬼にもなれる。みんな一番大切な人のことだけを考えた……』Nのために冒頭より引用

それぞれに大事なNがいて、その人のためだけに捧げる究極の愛。自分ではなくそれぞれのNのために。タイトル回収はきれいなものだとは思いましたが、読んでいるうちに予想できたので、タルシスに満ち溢れるとまでは行かなかったなと言うのが個人的感想。面白かったのは変わりないですけど。


終わりに

Nのために
Nのために

Nのために4.0

これまで読んだ小説の中で、これほど一方的で満たされない美しさは見たことがありません。それぞれの想い人のために行動した彼女たちの雄姿を見れてよかったと思います。

今回はここまで、ありがとうございました。

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