秘密のちから|騎士団長殺し(著:村上春樹)ネタバレ感想【part56】

ー読書感想文ー

騎士団長殺し(著:村上春樹)ネタバレ感想

騎士団長殺し
騎士団長殺し

【騎士団長殺しあらすじ】
最愛の妻『ユズ』から別れを告げられた肖像画家の主人公は、友人の勧めでかつて日本で名を馳せた画家『雨田具彦』の邸宅へ引っ越すことになった。屋根裏部屋で見つけた遺作『騎士団長殺し』という絵に魅了された主人公の身に奇怪な出来事が起き始める。不思議な鈴音に引き寄せられて、村上春樹ワールド全開の長編小説が幕を開ける。

今回は『騎士団殺し』のネタバレ感想です。

私にとって6作目の村上春樹作品。小田原を舞台に描かれた本作は、タイトルからは想像もつかない不思議な物語でした。正直、読み終わった今も私の中で物語の核がフワフワしていて、あまり掴めていない気がします。

男の女々しさ、性交、現実と非現実が溶け合う世界観は、まさに村上春樹の世界。

今日はそんな不思議な世界にお邪魔して思ったことを記しました。


北条なすの

・体育会系聖地ライター
・アニメ聖地や書籍の感想などを総合エンタメサイト。特にゆるキャン△が好き。別サイトでは歴史・自然スポットを中心に日本の魅力を発信中。
【実績:マケイン聖地完全制覇/ゆるキャン△聖地大井川原付完全走破など】

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【今回の記事の概要】
・騎士団長殺しネタバレ感想
・男の女々しい繊細さと村上春樹らしさ
・人はそれぞれ秘密を抱えて生きている
・総合評価


男の女々しい繊細さと村上春樹らしさ

小田原周辺足柄の山奥(私撮影)
小田原周辺足柄の山奥(私撮影)

✔主人公⇒ユズに対する未練に光る男の女々しさ

1人の女を愛した代償はでかい。すぐに切り替える訳もいかない男心を、村上春樹は完璧に描いて見せます。後の作品である『街とその不確かな壁』も同様に未練がましい片思いの物語だったので、重なる部分が多かったです。‘‘重なる‘‘というのは、私の人生にもという意味も込められております(笑)

胸にぐさぐさと刺さる未練。ちょうど私は失恋したばかりだったので、心に刺さるものばかりでした。文学である以上、その苦しみも楽しみの一つと捉えていますが、やっぱキツイデスネ。

特に印象に残った(深く刺さった)フレーズと共に『騎士団長殺し』を振り返っていきます。

・『ーー真実がときとしてどれほど深い孤独を人にもたらすかということが』【1巻p.419より引用】

免色さんが秋川まりえが我が子かもしれないと打ち明けたシーンより。まりえの肖像画を眺めるだけでいい、その可能性について思いを巡らせることでいいと、ゆらぎに生きることを求めた免色と疑問を抱く主人公。最終的に道を違えた2人、このシーンは最初の枝先の別れと言えるでしょう。

私は主人公派です。真実が知りたい。でも、免色さんの気持ちもよく分かる。私もそうだったから。

余白(ゆらぎか)があることで、ほんのわずかな隙間に幸せを見ることができるんですよね。その真実がたとえ不幸なものであったとしても。問題なのは前に進めないこと。過去の私もそうだったから、自分自身の停滞に気づいたときにどっと後悔が押し寄せました。

前に進み続けることを選択した主人公と対比される人物像でした。

『私は、その手紙を何度も読み返した。そして文面の裏に隠された気持ちのようなものを少しでも読み取ろうとつとめた』【1巻p.497より引用】

くそ分かる。気持ち悪いぐらいに当てはまる女々しさ。

ユズからの手紙を受け取った主人公の行動です。今私もデートを断られた時のメッセージから、奥にあるものを読み取ろうとしていますが、何もありません。綴られるのは、ただ冷酷に言い放った断りの文面でしかない。もしかしたら、もしかしたら、と何度も考えてみるけれど、やっぱり何もない。

ここまでは、主人公も意図せずゆらぎの中に閉じ込められている状態ですね。

そうか、ゆらぎから出るって、本当に難しいことなんだなと今思い知りました。主人公がどうして主人公であったのか、あの細い洞窟? を抜けて前に進み続けることができたからなんですね。もしもその選択肢を手に入れたとき、私は前に進む決意をできるでしょうか。免色さんみたいにゆらぎにいることを望むのでしょうか。

……とにかく前に進めるよう頑張ろう。


人はそれぞれ秘密を抱えて生きている

還ろうメタファー編で登場した伊豆スカイライン(私撮影)
還ろうメタファー編で登場した伊豆スカイライン(私撮影)

✔秘密を抱えて孤独に生きる先には破滅がある。

『騎士団長殺し』から始まった不思議な物語。雨田氏が抱えた秘密は、立ち止まった主人公を導き前に進む力を与えた。イデアの世界に迷い込んでそれを手にして帰って来るというのは、とても美しいストーリーラインだなと思いました。

私はずっと考えていました。秘密を抱えてゆらぎで留まることが正しいことなのかを。

私にも、いや、誰にだって自分しか知らない自分自身の秘密を抱えていると思います。それが後ろ向きなことなら、歳を重ねたって忘れることは無いでしょう。

私が考える本作の肝は‘‘秘密の共有‘‘と孤独です。

雨田氏が抱えたウィーンでの出来事≒秘密は『騎士団長殺し』に込められた。強烈な思念が宿った絵には不思議な力が宿り、主人公たちを巻き込んでいく。日本画を辞めるほど強烈だった出来事です。一人で秘密を抱えた雨田氏はどこかで死んでもおかしくなかった。それをさせなかったのは‘‘みみずく‘‘なのかなと私は考えます。誰かが知っている状態を保つメタファー的存在がみみずくであり、『白いスバルフォレスターの男』もまた、主人公の抱えるものをずっと見ているぞ、というメタファー的存在だったのでしょう。ある種の主人公への救済とも言えます。

主人公が『騎士団長殺し』を見つけて雨田氏の抱える秘密≒騎士団長を目の前で殺したことで成仏する。

最終的にまりえと『騎士団長』という秘密を共有した2人。前に向かって歩き出した以上、白いスバルフォレスターの男は必要ない。震災を絡めて全てを消し去ってしまう滑らかなストーリーラインが美しい。

人は誰しも秘密を抱えて生きている。

それは時に破滅を呼ぶこともある。

でも誰かが待ってくれているのなら、誰かと共有できたのなら、伝えられたのなら、きっといい未来が待っている。私も少しずつ抱える負担を減らしながら生きていきたいと思う。私はどっちかというと免色さんタイプなのでそういう生き方を辞めたい。


終わりに

騎士団長殺し
騎士団長殺し

【騎士団長殺しまとめ】
・女々しい男と秘密を抱えた者たちの物語
・立ち止まることなく、待っている人を信じて前に進もう。
・秘密は時に破滅をもたらしてしまう。
・総合評価4.1

今回は『騎士団長殺し』ネタバレ感想でした。

村上春樹は余韻の書き方が上手い。私はそれに尽きると思うのです。会話も独特だし、時折理解に苦しむ物語になることもある。だけど、余韻が本当に美しい。

1Q84とか海辺のカフカとか、『ってきて全部解決!』みたいな晴れやかな終わりなので全部よし。

次は何を読もうか、でも最近村上春樹作品を読みすぎているので一旦お休みかな。

今回はここまで。ありがとうございました。

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