仮面の告白(著:三島由紀夫)

【仮面の告白:あらすじ】
女に対して不能である主人公の葛藤を描いた物語。嘘をつき普通を演じる人生の中、目を背けられない綻びに絶望を繰り返す。幼少期から繰り返す自己探求の先にある答えとは。抗えない本能と‘‘普通‘‘の間に生まれる文学的美しさに酔いしれろ。
今回は三島由紀夫先生による名作『仮面の告白』のネタバレ感想です。
『どうしてこんな言葉を紡げるんだろう』
いつも三島由紀夫先生の文章を読むと、その美しさに惚れ惚れとしてしまう。文章には三島由紀夫先生の生き方が現れているようにも思えます。
さて、今回の作品は『仮面の告白』という物語。
話は聞いていましたが、本作は主人公の男色嗜好に対する葛藤が描かれています。
時代が時代。現代ではそれなりに理解?も進んでいる性的マイノリティーですが、『結婚』が前提である戦前~戦後の時代背景を考えると、現代に生きる私たち以上の苦しみがあったに違いありません。
そんな主人公の葛藤を通して、私も自分を疑わざるを得ませんでした。
【今回の記事の概要】
・仮面の告白ネタバレ感想
・嘘を信じ切ることはできない
・読者自身への問いかけ
嘘を信じ切ることはできない

女性が好きだと信じ込む主人公。自分に嘘をついて生きるのことの苦しさ。
『仮面の告白』は主人公が幼少期から男の肉体に惹かれていたという回想から始まります。
主人公を苦しめる普通とのズレ。
繰り返されるその描写から主人公の苦しさが痛いほど伝わってきました。
そのことよりも更に私をみじめな気持にしたのは、こうした遅い理解が、必ずしも私の無知から来るのではなく、彼と私との明らかな関心の所在から来るのだということだった。【p.84より引用】
例えば、未亡人になった片倉くんの母に対する『落第生の恋人』(友人)との一節。
‘‘未亡人‘‘という部分に正常に反応する『落第生の恋人』
そして、それが意味するエロティシズムを理解できなかった主人公。
このような普通との差が様々なシーンで表現されています。
近江を巡る主人公の葛藤も素晴らしかったですが、私はこの一節を抜粋しました。
ただ理解できなかったのではなく『遅れてやってくる理解』が主人公の悩みを象徴するものだと思ったから。特にグサッときたワンシーンです。
自分を俯瞰的に見ている感じも、諦めの感情を際立たせています。
どこまで行っても‘‘女性‘‘は他人事である。
これを決定づけたワンシーンだったと思います。
実際の年頃の男子と比べても差は明らかです。性の目覚めが遅い男子は分かっていて気づかないふりをするのが一般的ではないでしょうか。少なくとも私は性の発露が遅かったので、知っていたけど見て見ぬふりをし続けていました。
そして徐々に自分の嘘を自覚して『悪習』に目覚めていく。
だからなのか、『遅れてやってくる理解』という普通とは異なる感覚が新鮮で私を惹きつけたのかなと思います。

普通になれない主人公。とっても大変だ。

主人公は成長するにつれ嘘を信じ込むように
そして、初めての接吻を経て園子との関係性が始まります。
……お前は女に対して欲望があるのかね? 彼女に対してだけ「卑しい希み」がないという自己欺瞞で……園子の裸を想像したことが一度でもあるかね?……【p.144より引用】
読者にも主人公にも現実を呼び起こす悪魔の囁き。
自分をだまして生きようとしても抗えない本能。主人公は布団の中で『因襲』に身を任せるも、その際に心に浮かべたのは主人公好みの若者だった。
特に『彼女に対してだけ「卑しい希み」がないという自己欺瞞』このフレーズから、主人公の苦しみが良く伝わってきます。
『女性に対し性欲が湧かないのではなく、園子に対して湧かないだけだ』というのが、極限まで嘘を信じ切ろうとした主人公の葛藤を象徴しているなと思いました。
‘‘普通‘‘に手を伸ばそうとする主人公のズタボロな手が想像できます。

もう逃げられないな

その後の園子の『どうして結婚できなかったんだろう』まで繋がります
確かに主人公は男色に悩んでいました。
しかし、同じように普通になれない自分を嫌い、嘘をついて生きてきた人はたくさんいるのではないでしょうか?
ふと、私も自分の過去を思い出しました。
私の場合は性欲ではなく承認欲。遠いようで近い感情かもしれません。
自分に嘘をついて『SNSで自分のことを載せるのが普通なんだ』と柄にもなくリア垢でインスタを投稿していたこともありました。あーやだやだ。当時は置いて行かれている気がしていたのでしょうね。みんなインスタで繋がって、蜜月な関係が始まることも少なくない。
そこに憧れはあったけど、本心ではなかった。
インスタを辞めてからは自分を取り戻せた気がしたのを覚えています。
結局自分の心に従うのが幸せの近道なんですよね。
でも、主人公が生きた時代はそれが許されなかったと言える。
結婚が当たり前で、性的な面でも同性愛なんてタブーだったでしょう。
主人公の痛みは想像できるけど、究極の意味で理解をしてあげることはできないのかもしれないなと思いました。
読者への問いかけ

『仮面の告白』を読んで、改めて自身の性的嗜好や性別に疑いを持つようになりました。
『仮面の告白』では『女に不能であるが、男性に反応して『悪習』に走ってしまう』ことが一貫して描かれていました。
なら自分がオスかメスかを決めるのは、男性器が指し示す先なのか。
なら主人公は女なのか。それが違うのなら性別なんて誰かに勝手に決められてしまうものなんじゃないか。まず、自分がオスかメスかってどう自認するんだ?
イレギュラーがある以上、自分に嘘をつき続けている可能性もあるんじゃないか。
男の身体を貰って女が好きな女である可能性もあるのか……と際限なく考えてしまうので早めに寝るようにします。
でも、世の中そうやって本気で悩んでいる人も大勢いると考えると、互いの理解のために当たり前を疑うことが大事だなと思いました。
終わりに

【仮面の告白まとめ】
・普通に届かない主人公の葛藤。
・嘘をつき続けて生きる先に幸せはない。
・自身の性別さえ疑ってしまう繊細な心理描写。
仮面の告白
三島文学最高ですね。筆者はこれで4作品目。生々しくも恥じらいある描写で性を描く三島の作風が私は大好きです。
次は何読もうか。
今回はここまで。ありがとうございました。
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