【極上サスペンス】依存(著:西澤保彦)小説ネタバレ感想㊺

ー読書感想文ー

依存(著:西澤保彦)

依存
依存

【依存(著:西澤保彦)あらすじ】
田舎の大学生ウサコたちは、ルルちゃんの誕生日会として教授の邸宅に招待される。そこで教授から新しい妻として紹介されたのは……なんと密かに思いを寄せていたタックの母だった。絶世の美女タカチをはじめとして、様々な仲間の過去を紐解き、それぞれの自己欺瞞から見えてきた真実とはーー恋愛・青春・サスペンス……たくさんの要素が詰まった長編物語。

今回は、依存(著:西澤保彦)のネタバレ感想です。

600P超にのぼる超大作。BOOKOFFでの偶然の出会いから、一瞬で読み終わってしまいました。

実は私、あまりサスペンス、探偵小説的なものは読まないのですが、このシンプルな『依存』という題名に惹かれてしまい、読んでみることに。

実際に読んでみると、『依存』という一言に集約される。本作は、多くのキャラ達の過去や現在進行形の事件が入り混じる、非常に複雑な物語です。

そんな物語の中に迷い込んでしまったウサコちゃん。

最後はウサコちゃんにしか成しえなかった最高の結末を迎えました。

筆者
筆者

では、いってみましょう


北条なすの

『ーー聖地を通して見た日本が世界で一番美しい』
聖地巡礼はきっかけに過ぎない。日本の魅力を再発見し、新たな視点でお届けする総合エンタメサイト。別ドメインでは歴史や自然の観点から発信中。これでも昔はアスリートでした。

北条なすのをフォローする

【今回の記事の概要】
・『依存』ネタバレ感想
・‘‘小説は視点の芸術である‘‘
・次々と解き明かされる自己欺瞞
・総合評価


‘‘小説は視点の芸術である‘‘

視点

ーー小説は視点の芸術である【今野敏先生より】

2024年度の警察小説新人賞の選評より、この言葉を引用させていただきました。

筆者も素人なりに小説を書いているのですが、強烈な選評の中に光る言葉のセンス。この言葉に出会った時に『なるほどな』と、とても納得できて、今でも心に残っている言葉です。

今回の『依存』という作品は、まさに視点の芸術にふさわしい物語だったと思います。

本作は警察小説ではないので、トリックなどで用いられる視点の工夫というニュアンスとは違ってしまいますが、ミステリー要素を孕む本作にも、この評価が相応しいと感じました。

つまり、何が言いたいかというと……ウサコの1人称視点だったからこそ物語が際立っていたということです。

読了した方なら分かると思いますが、本作の主人公とヒロインって『タック』と『タカチ』なんですよね。互いに過去に囚われていて、前に踏み出せないでいる美男美女が、最後過去を乗り越えて結ばれるというお話なのです。

本当は、それが解決される場所にウサコはいないはずだった。

だけどたまたま居合わせてしまったから、好きだった(自己欺瞞)タックはウサコのことなんて見ずタカチに過去を告白している。

それを第三者目線で見せていくことでしか味わえなかった魅力があったと思います。

普通にタカチ視点で描いていたら、タックと必然に結びついて綺麗な物語として幕を閉じていたでしょう。どちらも好き同士、‘‘誰も入る隙なんて無い必然の物語‘‘なんです。

そこに普通の女の子であるウサコが第三者として入ることで、2人が周囲からどう見られているのかが分かり、ウサコの強烈な嫉妬越しにみることで、二人の魅力や必然性が際立っていたと思うのです。

二人が密会しているとこを、ウサコが見てしまったから。

ウサコが振られて、結ばれ、二人を見送るまで、最後まで視点がぶれず、同じ視点を共有できたから成り立っていた。まさに視点の芸術。

タック以外に誰もタカチを救うことはできなかったし、タカチ以外にはタックを救うことができなかった。二人の出会いの意味は、きっとそういうことだったのさ【p.622より引用】

引用ばかりで申し訳ないですが、同じ物語を村上春樹先生に描かせたら、全く別の物語になっていたでしょうね。このボアン先輩の言葉を聞いて真っ先に1Q84(著:村上春樹)が浮かんできましたし。

筆者
筆者

徐々に近づいていく二人の視点の物語となっていたでしょう

【関連記事:1Q84感想】

そういう意味では、『依存』という作品は、ある種正当な形で二人の結びつきを描いたとも言えます。

本作は恋愛も青春もサスペンスも混ざった物語ですので、色んな楽しみ方ができますね。妄想に耽りすぎると『この物語は僕が書いたものだ』と欺瞞に閉じ込められそうになるので止めておきましょう。


次々と解き明かされる自己欺瞞

自己欺瞞

依存とは自己欺瞞に陥り、行為が形骸化してしまうこと。

それぞれの自己欺瞞が暴かれて、結末へ向かっていく。このカタルシスと伏線回収は見事なものだと思いました。

次々と議論が重ねられて解決していく様も、ルルちゃんストーカー事件も、随所に伏線が散りばめられていましたし、息継ぎの余裕がないぐらい興奮の波が訪れます。

特に、ラストのタックの兄が欺瞞が生んだ架空の存在だった、というのは驚きました。

全部全部、自己欺瞞の先にあったんだって、一番の語り手が……

ウサコもそうでしたけど、人って結局弱いなって思いました。自分の体験すらも背負えなくて、自分に嘘をついて生きていく。月並みだけど、月並みだからこそ、自分にも投影して読んでいくことができました。

みんなどこかで嘘を抱えている。そういう弱さも助け合って生きて行かないといけない。もしもまっさらな状態で誰か出会えたとして、あるいはまっさらにしてくれた誰かに出会えたのなら、その人が私の『タカチ』であって欲しい。

筆者
筆者

誰か私を受け入れて……

やじ担当
やじ担当

依存するなよ!


終わりに

依存
依存

【依存(著:西澤保彦)まとめ】
・ウサコ視点で描かれたからこその魅力
・恋愛、青春、サスペンスどれをとっても一級品
・色んな登場キャラの視点で考察したい作品

依存4.1

今回は『依存』のネタバレ感想をお送りいたしました。

誰しもの心にある自己欺瞞。きっとどこかに歪んだ過去を持っているのでしょう。

ありました。ありました。自分の一番の嘘。

って誰にも言えるわけないですね。

読み終えたからは、ひっそりと自らの心に問いかけてみてください。

今回はここまで。ありがとうございました。

【関連記事:その他の小説感想】

コメント