おんなの花見(著:宮本紀子)

今回はおんなの花見(著:宮本紀子)のネタバレ感想です。
【あらすじ】
江戸の街で煮売屋を営む主人公、お雅。江戸で働く人の胃袋を支えながら、今日も料理を作り続ける。迎えるお客さんの問題ごとに巻き込まれながらも、料理を通して人と人とを結び、幸せを届ける。普段の日常をちょっぴりと彩るような温かな物語。四季×料理×江戸の人間模様と情景描写が見所の一冊。
BOOKOFFでたまたま出会った一冊からの感想です。江戸時代を舞台に繰り広げられる日常系ストーリーで、読み進めるごとに人の優しさに触れることができる作品です。とにかく食欲会湧いてくるようなこの一冊を、今回はネタバレ有の感想でお届けします。

重い小説の間に読みたい‘‘安息の小説‘‘
【この記事の焦点】
・おんなの花見感想と学び
料理を通じて温まる心

今作の見所の一つは、思わずお腹が鳴るような料理描写です。
現代の凝った料理ではなく、あくまでも庶民に寄り添う煮物を扱っているので、多くの読者の胃袋を掴んでくるのではないでしょうか?
『……お雅はなべにちぎった蒟蒻に里芋、蓮根に牛蒡、干し椎茸をいれてゆく。椎茸の戻し汁と会あせた出汁を、ひたひたに被るぐらい注ぎいれ、少し濃いめの味付けで煮てゆく……』
『はるのいわし』冒頭部分より引用。
私たちの日常に溢れるような料理を、シンプルな形で表現しています。
もう一つのテーマである季節との親和性もバッチリで、季節に寄り添った料理が提供されます。夏のエピソードでは心太が印象的でした。
練り芥子と黒砂糖の二種類で私も頭を悩ませていました。物語に起伏は少ないですが、その分だけ江戸の日常が際立つようになっています。
そして料理を通じて人を結ばれていく過程が、なだらかな下り坂を駆けるような心地を生みます。
特にお花見のお弁当作りに奔走する姿は心が温まりました。
エピソードとしてはお雅の知り合いの失恋物語が描かれるのですが、最後は女3人で晩酌で締めくくられるのもまた粋だなと思います。作っていた側が食べる側に回って、友と語らう姿を見ていると、煮売屋ではなく、等身大のお雅が見れた気がして、読者としてもひととなりを知ることができました。
また、お雅料理を通して慰めるお雅の優しさが和やかな雰囲気を生み、熱感あるエピソードの着地となりました。
細魚を捌く中で、腹黒さをため込む姿を人と重ね合わせて元気づけるシーンでは、私も元気づけられました。世の中を渡るにはため込むしかないけど、外に出さない優しさは、今の現代人が目指すべき理想像でもあると思います。
昨今ではSNSが発展して、どこででも憂さ晴らしできる環境が出来上がってしまっていますが、そういった世の中だからこそ、自分の中で消化して優しさに変えることができたら……。

誰かに料理をふるまう良さを知れました。
印象に残ったエピソード

【印象に残ったエピソード】はるのいわし
初めのエピソード。長屋の主、差配さんが料理を作らない奥様方に怒るところから始まる。
江戸時代を感じる亭主関白な男性と、お雅の料理が邂逅する瞬間。底に弾けるのは火花ではなく、春のタンポポのような温かさです。
特にお雅が言った言葉が印象に残っています。
『料理をつくることも大事ですが、毎日料理をつくる者の身も、また大切だということでございます……』
『はるのいわし』より引用。
当たり前かもしれないけど、ハッとする一言。『そういう人を支える時に私も頑張ろうと思える』というお雅さんの生き様を見ることができたのも良かったです。
楽をしようってだけじゃないですからね、たまには休まないといけません。総菜屋さんのような存在が末永く残っていて欲しいと思いました。
私の地元にも地元民を支える総菜屋がありますので、何だか懐かしい気分にもなりました。あの味が恋しくて、読み終えたときには、空腹感でいっぱいです。
皆さんの地元にも、主婦の生活を支えるお惣菜屋の一つや二つがあるのではないでしょうか?

地元のお店の総菜が食べたい……
終わりに

おんなの花見
今回はおんなの花見(著:宮本紀子)のネタバレ感想でした。物語の起伏が少なかったので、少々点数は低めとなりましたが、私の胃袋を掴んだことは間違いありません。江戸の人情に触れて、心優しい世界に包まれてみてください。
今回はここまで。ありがとうございました。
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