桐島、部活辞めるってよ(著:朝井リョウ)

【桐島、部活辞めるってよあらすじ】
バレー部の部長だった桐島が突然部活を辞めた。様々な憶測が飛ぶ中でもバレー部の活動は続いていくし、学校という世界も変わらず続いていく。前に踏み出したり、踏み出せなかったり、思春期を懸命に生きる高校生が緻密な描写で描かれる。
作家:朝井リョウ先生のデビュー作である『桐島、部活辞めるってよ』のネタバレ感想をお送りいたします。
この作品は映像化もされていますし、知っている方も多いかもしれません。ですが、筆者は実は今まで読んだことがなかった。人生のほとんどを部活に捧げていた読書好きなのに触れたことがありませんでした。大変申し訳ありません……
筆者の事情は置いておいて、本作の魅力を一言で表すなら『青さ』かなと思いました。
明るくて人気な生徒でも、暗がりで大人しくしているだけの生徒も、みんな何かを抱えていて、自分を照らしてくれる光を探している。
本作は言わば群像劇なのですが、どの視点・立場でも緻密な心理描写が胸を締め付けます。頑張って他者を推し測ろうとする生徒たちを描けるのは、思春期を抜けた大人だからこそ。
そんな『桐島、部活辞めるってよ』をネタバレ有感想でお送りいたします。
最近は部活ものの感想が続いてますね【前回】
【今回の記事の概要】
・『桐島、部活辞めるってよ』ネタバレ感想
・思春期特有の不安定さ
・桐島はどうして部活を辞めたのか
・総合点数
【思春期】自己の不安定さ

読者の誰もが、きっと誰かに共感できる。育ち切っていない自己の美しさ。
ここからはネタバレありなので。『桐島、どこにも出てこなかったよ』
そうきましたかと……
注目を浴びるのは桐島の周囲の人間たち。総勢7名、立場も性別も違う高校生たち視点で物語が進んで行きました。
恋・将来・家庭・部活……それぞれ悩んでいるものは違いますが、皆に共通することが『自分も他者も分からない』ということ。主題として『桐島が部活を辞めた理由』があることで、その点が強調されているように思いました。
どの視点においても共感しかないと思いますが、誰の立場に立って考えても、隣の芝は青く見えるし、桐島が部活を辞めた理由だって分からない。
本当に高校生に戻った気分で読んでいました。まだ何者にもなれる『真っ白なキャンパス』ってこういうことだよなと、どの立場でも緻密に心理を描き切るデビュー前の浅井先生、ほんと凄いなと思いました。
筆者の中で特に共感を覚えたのは、やっぱり映画部周り。
・僕らは気づかない振りをするのが得意だ。気づくということは、自分の位置を確かめることだからだ【p.96より引用】
・世界はこんなに広いのに、僕らはこんなに狭い場所で何に怯えているのだろう【p.100より引用】
・世界はこんなにも広いのに、僕らはこの高校を世界のように感じて過ごしている【p.102より引用】
・僕はかすみに、もう何も伝えられない【p.117より引用】
・僕らには心から好きなものがある。それを語り合うときには、かっこいい制服の着方だって体育のサッカーだって女子のバカにした笑い声だってすべて消えて、世界が色を持つ【p.119より引用】
自分に自信が持てない前田くん。誰もが欲しがるものを持っているのに、何かに怯えて世界を生きている。勝手に自己嫌悪に陥って前に踏み出せないでいる片思い、ほんと最高。
筆者も勝手に壁を作って、自己嫌悪して、どれほど損してきたんだろうと、自分の学校生活を振り返っていました。自分が傷つくのが怖いだけで何も踏み出せなかったなって思います。
今もその気質は変わっていないですが、一つだけ辞めたのは自己嫌悪すること。人に勝手に壁を作ってコミュ障を発揮するのは変わりませんが、明確に硬い自己がある。そういう意味では自分も成長しているんだなって、前田くんを見て思いました。
対して、帰宅部の陽キャ:菊池くんがいることで、さらに美しい構成に。
・だけど、そんな気分も一瞬でなくなってしまうぐらいのものが、あいつらにはあるんだ。どっちがむなしいんだろうな、俺と【p.198より引用】
・前田の目が開いた。どこか広い世界へと続く扉が開くように、前田の目が開いた【p.199より引用】
・一番怖かった。本気でやって、何もできない自分を知ることが【p.209より引用】
あんなに暗がりだった前田くんの世界に、菊池くんは光を見ている。
この構図が素晴らしい。
自分も他人も推し測ることができない思春期の高校生だからこそ見える世界がガラッと変わる。視点が変わる青春群像劇だからこそだなと思いました。
僕たちおじさんは、二人に光を見ているよ泣
桐島はどうして部活を辞めたんだろう

その答えはきっと、読者の一人一人が現実で出した答えに重なる。
部活で不仲という描写も少しありましたが、桐島視点がないことを踏まえると、読者の想像にお任せしますスタイルなんじゃないかなと思うのです。
結局人の考えなんて理解できない。大人だって完璧に理解することはできません。理解しようとするのが美徳である世の中の風潮もありますが、桐島視点で考えたとき、筆者だったらどう思うのか。
『分かられてたまるかよ』っていうささやかな反抗心が芽生えていたと思います。
筆者が何よりそうだったから、桐島もそうだろうと勝手に解釈しました。
筆者も部活を辞めた(厳密には引退)経験があります。誰も自分の気持ちを分かってくれなくて、表面的なところだけ見て『お前は続けるに決まっている。やるべきだ』って強要されていました。
それに対するある種の復讐が、何も言わずに部活を辞めることだったのです。
分かってもらわなくていい。僕は自分の道を進むからって。
『どうして辞めたんだろう』って皆に言われているって言うことは、どこかで当たり前を押し付けられて、それがプレッシャーになっていたのではないか。
なら、そんな当たり前ひっくり返したくなるのが思春期な気がしています。
まぁ、どちらにせよ後ろ向きに辞めていないんじゃないかって思いました。ただ、そこに明確な理由もなく思い立った行為でもあると思います。
それが思春期ですから。
終わりに

【桐島、部活辞めるってよまとめ】
・桐島を巡る青春群像劇。きっと誰かに共感する。
・桐島だって、辞めた理由に確固たるものがあったわけじゃないのかも。
・思春期の精神構造を緻密に描き切った名作。
今回は『桐島、部活辞めるってよ』のネタバレ感想でした。
まさか桐島が登場しないのは驚きでしたが、桐島のことも自分のことも分からない思春期の学生を見ていると、何だか懐かしくなってエモくなってしまいました。
もう一つ。筆者はもう少しだけ大人にならないとなと改めて思いました。
今回はここまで。ありがとうございました。
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