限りなく透明に近いブルー(著:村上龍)ネタバレ感想~小説感想メモ㉖~

ー読書感想文ー

限りなく透明に近いブルー(著:村上龍)

限りなく透明に近いブルー
限りなく透明に近いブルー

1970~80年代の東京都福生市における若者の喧噪。麻薬、乱交、酒に溺れる若者たちは、現実に何を見出すのか。米軍基地が近く多文化が入り混じる福生市で、言葉にならない悲痛な叫びが生々しく異様なまでの風俗的描写を通して描かれる。村上龍先生の芥川賞受賞作。

今回は限りなく透明に近いブルー(著:村上龍)のネタバレ感想です。

前々から村上先生の名前は聞いておりましたが、手に取って読んだのはこれが初めてです。正直‘‘普通‘‘に生きてきた私からすると、本作には理解しがたい世界が広がっていました。間違って隣の教室に入ってしまったかのような感覚です。本作で描写される生々しい若者の狂騒が私にはひどく怖いものとして映りました。

そして、『ここから何か読み取れ』と言われると言語化に苦しむのですが、そこには確かに文学らしい世界観があって、取り憑かれてしまうような文章がありました。

どこまで正しく読み取れているか分かりませんが、今回はそんな作品のネタバレ感想をお送りいたします。まぁ、あまりネタバレというネタバレはないかもしれませんが。


北条なすの

二次元が住処のガチ体育会上がりオタク。仕事しながらアニメ聖地の現地情報や小説の感想を綴っています。【実績:ゆるキャン△聖地(静岡西部)完全制覇・マケイン聖地完全制覇等】他にも貧乏旅行スキル、城郭、登山、温泉の記事を更新中。

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【今回の記事の概要】
・限りなく透明に近いブルーネタバレ感想
・恐怖と嫌悪を抱いてしまう本作
・現実と非現実の境目
・総合点


恐怖と嫌悪~文学の骨頂~

嫌悪

一言、もう現代人には刺激が強すぎますね。私が読み終えて最初に思ったのは『刺激的過ぎる』という点。若干の恐怖感と嫌悪感を腹にため込み続けて、それでも尚読み進めてしまった自分。頭の中が錯綜してしまって言葉にならないもどかしさを感じました。浅い感想で申し訳ないですが、同じように不思議な感覚に囚われた人は多いのではないでしょうか?

当時はまだ1970年代とかですか。現代では日常から逃げることができるツールで溢れていますし、筆者のようなアニメに溺れる人間も多数存在しています。他の人の葛藤や体験も気軽に入手出来てしまう今では起こりえない世界。きっと当時は言葉にならない葛藤や現実への嫌悪を言葉にならないものとしてため込んでしまって、快楽に変わり放出される。決して言語化されないままに。

ヘロイン、酒、乱交、黒人のペニスをしゃぶるとかもう異世界過ぎて……。電車の中で暴れたり、嘔吐物に塗れた世界だって現実からかけ離れすぎている。当時の若者が抱える‘‘何か‘‘を‘‘何か‘‘としてしか捉えられないから、頭の中が錯綜しているのかもしれません。『分からないだろうけど分からせてやる』っていう著者の詩的でリアルな描写は、確かに私の心を打ちました。

また、主人公の名前が『リュウ』でることからも、実際に著者が体験していた世界なのかもしれないという考えを巡らせながら読み進めることになります。それがまた本作を光らせている点かもしれません。一般人からすれば、不思議で非現実的すぎる世界ですが、主人公が『リュウ』であることで、現実のものとして捉えざるを得ない。そこに生まれる臨場感は、唯一無二の物と言えます。ただの恐怖や嫌悪しか残らないのなら、文学的価値はありませんからね。芥川賞を受賞していることからも、何かプラスαがあることは明白です。

そのプラスαは私にとって何なのか?

『逃げた先に残るもの』かなと私は思いました。

著者のあとがきを読む限り、本作はリリーへの叫び。後悔を綴った作品であると解釈できると私は思いました。何かに溺れ大切な人に失う。最後に目指したい世界が見つかったのに、それを一番教えたい相手はもういない。逃げたって何も得ることは無いのだと、現実と向き合うしかないなと私は思いました。


現実と非現実の境

境目

当時の福生には、現実が存在しなかったのでしょう。

急速に発展していく日本、そして米軍基地があって黒人、白人、日本人色々な人で入り混じる世界。そこに現実はなくて、全てが非日常に満たされた世界だったのかもしれません。

多色な世界。それは肌の色だけじゃなくて、実際に行われている乱交や酒宴、麻薬パーティにも当てはまります。思わず本を閉じてしまいたくなるほどに、五感に訴えるリアルを描き切ったことで、全てに色がつきました。

作中で描写される鳥の幻影。向かってくる‘‘何か‘‘

果たして『リュウ』が心の奥底で臨むものとは?

それが最後に描かれます。散らばったガラスを通して見た『限りなく透明に近いブルー』を見て『リュウ』は思うのです。『このガラスのようになりたい』『みんなに見せてあげたい』と。そしてアパートで鳥を待ち詫びる。

ヘロインも酒も性交も必要ない。ただ透明なブルーが欲しいということでしょうか。若気の至りを通して大切な人を失った『リュウ』はそういう世界から離れて大人になっていくのかもしれない。そう思うと、物語を通してとても美しい多色に彩られ、最後は透明に近いブルーという一色で終えた、非常に美しい物語であったと言えます。


終わりに

限りなく透明に近いブルー
限りなく透明に近いブルー

限りなく透明に近いブルー3.5

本当は私のような一般人には程遠くてあまり点数には反映できないなと思っていましたが、感想を書いているうちにこの作品の魅力を再発見できた気がします。拙い感想ですが、今後も書き続けようと思いました。

今回はここまで。ありがとうございました。

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