【新感覚】アルプス席の母ネタバレ感想

今まで描かれてこなかった、全く新しい視点から、不意にキュッと心を絞られる高校野球物語「アルプス席の母」のネタバレ感想となります。
高校野球と言えば……
理不尽、友情、努力、挫折
高校野球という世界は、物語のような逆転劇や成長ストーリー、ライバルとの再会など心をアツくさせる展開が毎年のように起きる世界です。それは、高校球児が毎日泥だらけになりながら努力しているからこそ生まれる物語であり、創作においてもそんな展開で心を動かされることが多いのではないでしょうか?
私自身も、高校球児ではないとはいえ長くスポーツやっていました。そのため、数多のスポーツ物の作品を見てきたのです。そんな私が、本屋のポップに一目惚れ。
「アルプス席の母」というタイトルを見た瞬間、私の頭には無数の思い出が巡りました。当時は自分ごととしか捉えられなかった部活動も、陰では多くの支えがあったこと。全てがフラッシュバックして、気づけばお会計に並んでいました。
果たしてどんな物語を見せてくれるのか。
じゃんじゃんネタバレアリで感想を綴っていきます。
【この記事の焦点】
・「アルプス席の母」ネタバレ感想
・総合評価等
①母親と子どもの成長

子どもが自分の知らないところで大人になっている。
母親と子どもの距離感にとてもリアリティがあり、非常に共感できる内容でした。私は親でもなければ女でもないですが、寮生活だからこその、互いに掴めているようで掴めていない曖昧な距離の描き方が、非常に胸に染みました。この辺りは意図的に頻出してスポットが当たっていた部分なのではないでしょうか。節々のエピソードで母親の小さな驚きが描かれていました。
・え? いつの間に彼女と別れているし
・いつの間にチームのために動けるようになって
・いつのまにかあんなに明るく
・いつの間に早起きできるようになって
航太郎君が帰省する度に菜々子さんが感じる嬉しさと寂しさのようなものが、私までストレートに伝わってきます。親の気持ちなんてわからないのに、分かった気になってしまうほどです。まぁ、それは私自身にも心当たりが……。
これは息子目線の意見ですが、自分でもわからないぐらいいつの間にか普通にできているものです。それに気づかないのも、「子どもでいて欲しいという」親心なのかもしれませんね。きっと目を逸らしてしまうものなのだと勝手に解釈しています。それが離れて暮らしていようとも。
そして、知らないところで勝手に成長している。その喜びと困惑を訛りの変化で表現していたのは凄くよかったです。寮生活していると、訛りって移るんですよね笑。私もたまに湘南訛りが出てしまうことがあります。
大阪弁への嫌悪が、菜々子さんの辛さと航太郎との隔たりをうまく表現していました。最終的に大阪弁が懐かしくなるまでの遷移が、物語の着地としてスッキリする終わり方。航太郎くんは高卒でプロには行けませんでしたが、菜々子さんにも航太郎君にも価値ある3年間になったのだなーと、最後の会話でつくづく思いました。
そして、結局変わらないのは航太郎君への愛なんだなぁ〜。とてもほっこり……
②母親視点だから見えてくるスポコン物語

そうか、そうだよね。やっぱ苦労するよね。何事も裏側って面白いです。何よりも1番大切なモノが自分から離れていくなんて、確かによくよく考えたらマジで辛い。私は平気で「寮はいりや〜す」という軽いノリだったので、どんな思いで私を見送ってくれたのでしょうか。そういうことを考えると本当にキリがない。航太郎君と菜々子さんが戦っている間、私自身も過去の思い出と戦っていました。後悔と懺悔を胸に抱えて読みながら、自分自身のことを考えさせられました。
また、親の熱量による衝突という部分も、学生視点では語られない要素です。でも、部活をやっていた人間なら、誰と誰が衝突したとかそういうの噂になりますよね。作中でも菜々子さんが監督に意見したことで、生徒たちに崇められてましたが、「そういうこともあったなー」とわかりみが深い。
そうです。自分よりも大切な人が全力で取り組んでるんですから、子ども以上にギスギスしてもおかしくはないなと、改めて思いました。
③航太郎の野球人生

最初に甲子園を持ってくることで、いい意味で予想を裏切られた結末です。好きなら続ける。それが母親の願いですから、こういう形で終わったのも良いとは思います。
最初にアルプススタンド視点で物語が始まり、伝令として出てくる息子を見てしまったら、こっちも最初から泣く準備ができてしまうではありませんか! 今にも涙腺が緩みそうな感覚でを保ちながらニ時間読んでいました。普通の精神状態では読めません。どこかふわふわしていて、辛さに寄り添いながら読むのもまた楽しいですけども。
超個人的な意見ですが、あんまり綺麗に終わる物語は好きではないので、最後のとんとん拍子は少しだけ複雑な心境でした。
ですが、航太郎君には絶対プロに行ってもらいたい。きっと、チームを背負って戦う力を身につけた航太郎君なら行けると思います。私にはそれができませんでした。どこまで自己中なので笑。
終わりに

アルプス席の母
今までにない新視点での高校野球物語。そのインパクトに恥じない物語構成と母親の心の揺れ動き。親でもない私が共感できるぐらい舞台設定も練られていましたので、とても面白かったです。
とにかく、菜々子さんへの共感を生み出す小さな工夫がたくさんあるなと思いました。また、私自身部活に熱中していた人間なので、思い入れ深い物語となりました。今までのことを反省して、親としっかりコミュニケーションを取ろうと思います。
今回はここまでありがとうございました。
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