夏を拾いに(著:森浩美)

今回は夏を拾いに(著:森浩美)のネタバレ感想です。
【あらすじ】
会社員である主人公は、急速に変化していく世の中を憂う。ーーかつて主人公が子どもだった時代は野山を駆け回り、自ら経験と失敗、創意工夫を学んでいた。しかし、部屋に閉じこもってばかりの息子にはそれがない。与えてあげたいけど世の中がそれを許さないもどかしさを感じていた。そんな時、主人公は息子に自ら経験したひと夏の思い出を語る。『お父さんがお前と同じ小学5年生だったとき、3人の友達と不発弾探しをしてな……』私たちにもあった『あの夏』を思い出させてくれる、ノスタルジックな長編小説。
田舎の夏休みを舞台とした物語であり、スタルジックな気分で満たされる作品です。
作中では、昭和の小学生の夏休みが描かれていますが、この物語を読むのに昭和の思い出は必要ありません。詳細まで練り上げられた時代背景は、私たちの潜在的な記憶をくすぐります。
昭和生まれでなくても昭和の夏休みを追体験することができ、最後には地元に帰りたくなるような気分になりました。
些細なことに本気で向き合っていたあの頃を取り戻したい方にはおすすめの小説です。
私自身はブックオフでたまたま手に取った作品がこの『夏を拾いに』でした。
大人になったばかりの私になんとぴったりなんだろうと思い、つい衝動買い。季節は晩秋となっていますが、夏を取り戻すために読み進めた私の感想を、ネタバレ有りでお伝えします。

野山を駆け巡っていた男性には特におすすめ
【この記事の焦点】
・『夏を拾いに』ネタバレ感想
世代を越える懐古

冒頭でもお話しましたが、今作には、幅広い世代に『懐かしさ』を与える魔法がかかっているなと思いました。
それを実現しているのは、やはり詳細に練られた時代背景。
恐らく作者さんの体験した『あの頃』をイメージして作られたのだと思いますが、『ボンカレー』とか『巨人の星』とか当時人気だったものの名前が挙がるたびに、つい今の時代と比較してしまいます。
世界は確かに便利になったけど、確実に閉じられている。
私はそう思いました。
平成19年から昭和46年の長い時代の変遷。人類史の中でも短い期間だと思いますが、実社会も随分と変わってしまいました。
何かと縛られることが多い世の中です。失敗が許されない空気とか、冒険が奪われているのが実情だと思いました。そう思うと悲しいですね。
作中では、チューデンの工場に忍び込んで磁石をパクるシーンなども描かれていますが、今じゃ絶対にありえないですから。監視カメラも発達している現代です。まず忍び込むことすらできないと思いますし、子どもが忍び込める大人の綻びが今の世の中にないんだなと思います。
便利になった分踏み外せないもどかしさ。これは大人になった私たちだから分かる特別な感情です。こういう思いはこれからも大事にしたいなと思いました。
また、自然の中での創意工夫が失われているという話もありましたが、この辺りは私も非常に共感できました。
というかまだまだ若造の私もそういう経験には乏しいですから、今の子どもたちがどんな風に育っているかなんてまるで想像がつきません。
私(20代)が小学生の頃は、まだ公園でボール遊びも自由にできましたし、川や田んぼで遊ぶ環境もありました。
ですが、私の地元でもほぼすべての公園でボール仕様禁止。芝生は撤去されて砂地になっています。こんな風に荒廃した現代に生きることで、ノスタルジックを味わってしまうのは、やるせない気持ちになります。
いや、もしかしたら現代が荒廃しきっているからこそ、今作が輝くのかもしれません。

ノスタルジーはいいことだけではないのかも……
全力だった‘‘あの頃‘‘

大人から見れば『不発弾探し』や『池飛び』は理解ができません。
でも、確実にあの頃の私たちも、そういう行為に走っていたはず。それがどうしてそんな思いを忘れてしまうのでしょうか。
私は、大人に足りないモノこそ『バカをやる』ことなんじゃないかと思いました。
歳を取るにつれて新しいものは減っていきます。普通に過ごしていたら退屈な世界が待っているのは必然だというわけです。
だけど大人はその運命を受け止めて退屈な道を歩む人も多い。人生を諦めているような人も多いです。私も後々こうなってしまうのかと考えると、ゾクゾクッと背筋が凍りました。
そういう時こそ、創意工夫が大事なのだと学びました。
子どもの頃の遊びって、無から何かを生み出すことが多かった気がします。『○○ごっこ』とかもそうだと思いますし、私なんかは、自分たちで設定を考えた探検ごっこを校庭でやっていました。
ゲーム機や携帯が無かった時代だからこそ、楽しむために創意工夫が必要だったわけです。
今は無数のメディア媒体がありますから、確かに創意工夫は減っているのかもしれませんね。
不発弾探しやエビガニ釣り、池飛びに価値を見出す創意工夫は、我々大人も学ぶべきものなのではないでしょうか。
創意工夫を経て、全力で取り組む。失敗もまた成長の糧。
どれだけ歳を取っても、これだけは絶対に変わらない。そう胸に刻んできてみようと思います。
終わりに

夏を拾いに
ということで『夏を拾いに』ネタバレ感想でした。まぁ、ほとんどネタバレなんてしていないんですけども、何が言いたいかというと……子どもから学べることは多いということです。
たまにはノスタルジックな気分に浸って懐古する時間も必要です。そしたらまた前を向けばいい。
いつまでも昔を懐かしむだけでは成長はありませんから、こういう作品は絶対に必要不可欠なジャンルだと思います。人生に疲れたら、この本を手に取ることをおすすめします。
今回はここまで。ありがとうございました。
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